2015918
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専門家コメント

福島第一原子力発電所周辺のモミの木、形態異常頻発か?

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<SMC発サイエンス・アラート>

福島第一原子力発電所周辺のモミの木、形態異常頻発か?:専門家コメント

国立研究開発法人 放射線医学総合研究所の研究チームは、福島第一原子力発電所の周囲で特に放射線量が高い地域に自生しているモミの木では形態が変化する頻度が高いとの研究成果を発表しました。今回報告された形態変化の頻度の増加と放射線被ばくとの因果関係についてはさらなる研究が必要だとしています。論文は8月28日、Scientific Reportsに掲載されました。

本件についての専門家コメントをお送りします。

 

【参考リンク】

放射線医学総合研究所によるプレスリリース

http://www.nirs.go.jp/information/event/report/2015/0828.shtml

 

高野 勉 放射性物質影響評価監

国立研究開発法人森林総合研究所 

東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射性物質で汚染された地域において、さまざまな生物に対する影響が調査されています。その中で、樹木を対象として放射性物質の影響の可能性を示した論文はこれがはじめてと思われます。学術情報が少ない帰還困難区域の樹木を調査対象とした結果であり、汚染初期の状況を示す貴重な資料といえます。

速報的な性格の論文であり、論文中の記述にもあるように、観察された形態変化と汚染状況との関係が証明されたわけではありません。今後の課題についても論文中で指摘されているとおり、動物の食害や気象の影響などでも同じ形態変化が生じることが知られているため、放射能以外の要因の検討が必要です。また、今のところ実際に樹木(特に頂端部)がどのくらい被ばくを受けたのか不明なため、セシウム以外の短寿命の放射性核種の影響も評価する必要があります。さらに、一旦樹木の中に取り込まれた放射性セシウムは樹体内を移動し、分裂組織などの特定の部位に集まることが知られています。部位によって内部被ばく量は変化するので、この影響も考慮しなければなりません。今回示された観察結果によれば、形態変化の発生率は2013年をピークとしてその後減少しており、発生率の変化と被ばく量との因果関係も検討していく必要があります。チェルノブイリの事故でも針葉樹に同様の形態変化が報告されていますが、このような情報がそろえば、より正確な比較が可能になると考えます。

本論文で示された高線量区域における調査結果を契機に、汚染度の違い、植物種の違い、木本と草本との違いなど、さまざまな要因を踏まえた議論や調査研究がさらに展開され、放射性物質による生態系への影響の実態が解明されていくことを期待しています。

 

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