海外専門家コメント
ミトコンドリアDNAの質と量が胚発生に与える影響
・これは、2015年10月20日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。
・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。
<海外SMC発サイエンス・アラート>
ミトコンドリアDNAの質と量が胚発生に与える影響:海外専門家コメント
オックスフォード大学のElpida Fragouli博士らは、ボルティモアで催されているAmerican Society for Reproductive Medicine の年次総会にて、ミトコンドリアDNAの量や質が受精卵や胚に与える影響についての発表を行いました。25〜42歳までの女性(平均38歳)から得た、352の受精卵(胚盤胞)と65の胚切片を対象に、そこに含まれるミトコンドリアDNAの質と量を調べたところ、若い女性ではミトコンドリアDNAの質が高いが量は少なく、高齢になるほどミトコンドリアDNAが異数化し、質の低下に加えて量の増加がみられたとのことです。同博士らは、卵が老化するほどミトコンドリアDNAの量が増える傾向は、不妊治療などの生殖医療における新たなバイオマーカーになりうるとしています。本件についての海外専門家コメントをお送りします。
翻訳は迅速さを優先しております。ご利用の際には必ず原文をご確認ください。
【参考リンク】
発表要旨:‘The biological and clinical impact of mitochondrial genome variation in human embryos’ by E Fragouli et al.
http://www.fertstert.org/article/S0015-0282(15)00612-3/fulltext
ASRM年次総会ウェブサイト
http://www.asrmannualmeeting.org
Prof Alison Murdoch
Head of Newcastle Fertility Centre at Life, Newcastle University
ミトコンドリアに異常がある女性も妊娠と出産は可能です。よって、女性が正常なミトコンドリアDNAをもつかどうかということを生殖能力とを関連付けるには注意が必要だと思います。
原文
“Women who carry major mitochondrial abnormalities are still able to produce embryos that develop well and make babies. Thus great caution is needed before this data from women with normal mitochondria can be related to potential fertility.”
Prof Simon Fishel
Founder and President of CARE Fertility Group, and Professor of Human Reproduction at CARE Fertility Group
ミトコンドリアDNAの量をマーカーとするには、その量がなんらかの機能異常に結びつくことを示さなくてはなりませんが、ミトコンドリアの主たる機能であるATP産生とミトコンドリアDNA量の関係は未解明です。また、著者らは胚全部の細胞について、ミトコンドリアDNAの量を調べたわけではありません。現段階で臨床でマーカーとしては使えないでしょう。
原文
“This is an area gaining interest, not least because we know that ageing cells, and the eggs from older women, have less functional mitochondria. But to be used as a meaningful assay (test), mtDNA (mitochondrial DNA) levels need to be directly related to function. At the moment we don’t know that just measuring mtDNA levels relates meaningfully to different energy (ATP) production – the main function of mitochondria – and therefore reduced cell viability. Secondly, the level of mitochondrial DNA will be related to the number of cells being analysed – this has yet to be clarified in assays. So it is very early days in this interesting lab research but we can’t yet consider it as a functional clinical test.”
Prof Tina Buchholz
Scientific Director of the International Federation of Fertility Societies
興味深いアプローチですがフォローアップが必要でしょう。ミトコンドリアは細胞の動力源として重要であり、着床の際に何らかの役目を果たしていると考えられます。しかし、胚のミトコンドリアDNAの量を調べるには細胞を傷つける危険性があり、しかも数個の細胞を調べただけでは胚全体のミトコンドリアDNAの量は判断できません。新しいバイオマーカーとするには、さらなる研究が必要でしょう。
原文
"The study from Fragouli et al offers a very interesting approach and it is certainly important to follow this up. So far however, this is a small study (with only 65 blastocysts used), and doesn’t provide sufficient evidence to implement in clinical practice. Certainly, mitochondria, as the powerstation of the cell, will play a role in implantation. But to measure the amount of mtDNA you need to perform an invasive approach, and futhermore it is not certain whether the result in one or a few cells is reflected throughout the whole embryo. We definitively need more research on this, and at this stage, I would be cautious in predicting this as a new biomarker."
記事のご利用にあたって
マスメディア、ウェブを問わず、科学の問題を社会で議論するために継続して
メディアを利用して活動されているジャーナリストの方、本情報をぜひご利用下さい。
「サイエンス・アラート」「ホット・トピック」のコンセプトに関してはコチラをご覧下さい。記事の更新や各種SMCからのお知らせをメール配信しています。
サイエンス・メディア・センターでは、このような情報をメールで直接お送りいたします。ご希望の方は、下記リンクからご登録ください。(登録は手動のため、反映に時間がかかります。また、上記下線条件に鑑み、広義の「ジャーナリスト」と考えられない方は、登録をお断りすることもありますが御了承下さい。ただし、今回の緊急時に際しては、このようにサイトでも全ての情報を公開していきます)【メディア関係者データベースへの登録】 http://smc-japan.org/?page_id=588
記事について
○ 私的/商業利用を問わず、記事の引用(二次利用)は自由です。ただし「ジャーナリストが社会に論を問うための情報ソース」であることを尊重してください(アフィリエイト目的の、記事丸ごとの転載などはお控え下さい)。
○ 二次利用の際にクレジットを入れて頂ける場合(任意)は、下記のいずれかの形式でお願いします:
・一般社団法人サイエンス・メディア・センター ・(社)サイエンス・メディア・センター
・(社)SMC ・SMC-Japan.org○ この情報は適宜訂正・更新を行います。ウェブで情報を掲載・利用する場合は、読者が最新情報を確認できるようにリンクをお願いします。
お問い合わせ先
○この記事についての問い合わせは「御意見・お問い合わせ」のフォーム、あるいは下記連絡先からお寄せ下さい:
一般社団法人 サイエンス・メディア・センター(日本) Tel/Fax: 03-3202-2514