201627
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国内専門家コメント

WHOによるジカ熱に対する緊急事態宣言について

・これは、2016年2月4日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

WHOによるジカ熱に対する緊急事態宣言について:専門家コメント

WHO(世界保健機関)は2月1日、「ジカ熱」に関する緊急委員会を開きました。委員会は、妊婦が感染すると、脳の発育が不十分な「先天性小頭症」の新生児が生まれる恐れがあるとし、現状を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」にあたると宣言しました。また、各国に対し、感染状況の監視強化、流行拡大を防ぐ措置、ワクチン開発などを勧告しました。この件について専門家コメントをお送りします。

*ジカウイルス

フラビウイルス科に分類され、遺伝子として1本鎖のRNAをもつウイルス。デング熱も同じグループに属するが、ジカウイルスによる症状でみられる発熱、頭痛、発疹などは、デング熱よりも軽いとされる。

**先天性小頭症

頭蓋骨が十分に成長せず、脳が異常に小さくなる病気

 

 

【参考リンク】

 

WHOによる緊急委員会報告(WHOのHP)

http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2016/1st-emergency-committee-zika/en/

 

ジカ熱について(厚生労働省HP)

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000109881.html

斉藤 美加 助教

琉球大学・大学院医学研究科

現ジカ熱はアフリカやアジアの風土病でしたが、今回は、病原体のジカウイルスが新たな生態と性質を備え、小頭症や神経症状を引き起こし,南米を中心に流行しています。感染しても多くは症状が穏やかか、無症状であることから、水際対策が極めて困難です。これまで日本において3名の輸入感染例が報告されているように、ウイルスの移入は避けられません。 デングウイルスを媒介するヒトスジシマカはジカウイルスも媒介するため、国内感染が起こる可能性があります。ジカウイルスに免疫のない日本では大きな流行の恐れがあります。

 今まで顧みられない病気であったため研究はすすんでおらず、特別な治療薬もワクチンもありません。そのため、現在、予防のためにできる有効かつ唯一の手段は、蚊の発生源対策と蚊との接触を避けることです。

 ヒトスジシマカは、家の周りの空き缶や花瓶の水たまりでも発生します。各地域で継続的に行われている発生源の清掃キャンペーンは蚊対策に有効で、住民意識の向上にも効果があるでしょう。蚊の発生する梅雨時期には、忌避剤や長袖長ズボンの着用により、蚊に刺されないようにすることが大切です。また、ジカ熱に罹患した恐れがある時には、自身が感染源にならないためにも蚊に刺されないように注意が必要です。

 ブラジルでのオリンピック開催となる今年はヒトとモノの移動が盛んになるため、特に警戒すべきなのはいうまでもありません。行政は、エマージングクライシスに対応するリスク管理の体制を整える必要があります。

都野 展子 准教授

金沢大学理工研究域自然システム学系

現時点では、WHOの報道や国立感染症研究所から必要な情報が提供されていると思います。ジカウイルスの感染について、これまでに、ヒト(感染者)から蚊を媒介して他のヒトへ、または妊婦から胎児へという二つの経路が認知されていましたが、性行為によっても感染する可能性が2月2日にロイターから報道されました。流行地へ旅行し症状が出ていないヒトからも、性行為により感染する可能性があることを報道したがよいと思います(http://goo.gl/YtzY0P)。感染しても症状の出ない例を含め、「感染者がどのくらいの期間、新たな感染源となりうるか」についての情報提供も必要でしょう。

日本においては、この冬は大丈夫でしょうが、夏場になり海外からジカウイルスが持ち込まれた場合には、ヒトスジシマカが媒介蚊となりえます。この蚊は庭先や叢、里山の竹林などに多く、朝から夕方、日没後の早い時間に吸血しにやってきます。長袖・長ズボン・虫よけスプレーなどを使用して刺されないようにすることが、自身を守るためにも、感染者を増やさないためにも大事でしょう。学会では、一昨年のデング熱流行の際に、感染者が旅行に出かけていたとの報告もされています。自分が発症しないことも大事ですが、自身が感染源にならないようにするといった意識をもつことも重要です。そのためには、メディアが正しい知識を報道することが重要だと思います。

竹上 勉 教授

金沢医科大学 総合医学研究所

現時点の報道で足りないのは、ジカウイルスの性質、感染状況、感染経路などを正しく伝えることでしょう。たとえばアメリカのメディアは、「性交渉時の精液を介した感染があった」と報道していますが、その可能性は極めて低いと思います。なぜなら、血液中のジカウイルス量は少なく、さらに精液中となると限りなくゼロに近いからです。また、メディアは「未知のウイルス、謎のウイルス」などと煽りがちですが、無用な不安感を抱かせないよう配慮すべきでしょう。もし、自身や周囲で感染を疑うべき状況になっても、まずは冷静になり、医師に状況や症状を正確に伝えることが重要です。

日本にジカウイルスが入ってくる可能性はあると思います。ただし、現在の流行地域の媒介蚊は主にネッタイシマカで、日本にも生息するヒトスジシマカは少ないようです。一昨年の日本でのデング熱流行もヒトスジシマカによるものだったので、当時の経験や対策は参考になると思いますが、ヒトスジシマカの数を減らすことには成功したものの、ゼロにできたわけではない点には注意が必要でしょう。

実は、「日本脳炎ウイルスのワクチンが、同じフラビウイルスに対しても効果を発揮するのではないか」との議論があります。私も注目しており、遺伝子解析により日本脳炎ウイルスに極めて近いことがわかっているウエストナイルウイルスについては、そう言えると思っています。ウエストナイルウイルスは北米やメキシコで大流行し、いつ日本に入ってくるかと恐れられてきましたが、未だに国内での発生がありません。もしかしたら、接種した日本脳炎ワクチンが効いているのかもしれませんが、ジカウイルスについても同じことが言えるかどうかはよくわかりません。

森田 公一 教授

長崎大学熱帯医学研究所

ジカウイルスは1947年にアフリカで初めて分離同定されたウイルスであり、ジカ熱はこれまで比較的軽症の熱病と考えられていました。今回このように前代未聞の大きな流行や、四肢麻痺のような神経症状や小頭症が発生するようになった要因について、ウイルスの変異や環境因子をふくめて早急に解明する必要があります。

これまで日本では3例のジカ熱の輸入症例が確認されています。幸い、国内流行は発生していませんが、デング熱と同じく日本国内に生息するヒトスジシマカでも媒介されるウイルスなので警戒が必要です。対策はデング熱対策と同じですので、すでに多くの都道府県で策定されているデング熱対策(媒介蚊対策)を、今年の夏も準備、実施することが重要だと思います。

感染した場合、多くは軽症です。発熱や関節痛、筋肉痛、発疹などがみられますが、1週間程度で軽快しますので過度の心配は不要です。ただし、最近の流行では四肢麻痺などの神経症状を呈する症例が発生していますので、このような症状が確認されたら早めに病院を受診することが望ましいです。また、中南米の流行ではジカウイルス感染による小頭症の発生が強く疑われていますので、妊婦は流行地域への不要不急の渡航は延期したほうがよいと思います。

一方、昨日(2/3)の報道では性交渉による感染の可能性も指摘されていますが、ジカウイルス感染は蚊媒介性の急性ウイルス感染症であり、性交渉による感染は極めて稀な事例と考えられるため、これが重要な感染ルートになることはないと思います。

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