専門家コメント
日本のチーム、がんが免疫を回避する新たなしくみを解明
・これは、2016年5月22日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。
・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。
<SMC発サイエンス・アラート>
日本のチーム、がんが免疫を回避する新たなしくみを解明:専門家コメント
北大、京大、東大医科学研究所などによるチームは、がんが免疫系を回避するしくみ(免疫チェックポイント)について、新たなメカニズムを突き止めたと発表しました。33種、1万例以上におよぶがん検体サンプルを対象にスパコンを用いて遺伝子解析したもので、免疫チェックポイント分子(PD-L1)の発現異常による未知の監視回避メカニズムを解明したとしています。論文は5月23日付けのNatureオンライン版に掲載されました。この件についての専門家コメントをお送りします。
【参考リンク】
http://nature.com/articles/doi:10.1038/nature18294
河上 裕 教授
慶應義塾大学医学部 先端医科学研究所 細胞情報研究部門
がんには「免疫をかいくぐる能力(免疫チェックポイント)」を獲得したものがあり、この回避能を阻害する薬剤(免疫チェックポイント阻害薬)が使われるようになっています。抗体を用いて、免疫チェックポイントの鍵となる分子(PD-1やPD-L1)をブロックする戦略です。
もともとPD-1やPD-L1は、体内で過剰な免疫反応がおきないようにするための分子です。これまでに、がんを攻撃するリンパ球(T細胞)が、がん細胞にはたらきかけてPD-L1を作らせて自身の免疫機能を抑制してしまうことや、がん細胞自身がPD-L1遺伝子の異常な増幅によって分子を過剰に作らせることが知られていました。
今回、研究チームは、がん細胞自身がPD-L1分子を作り出す新しいメカニズムを発見しました。33種、約1万のがん検体をスーパーコンピューターで大規模に解析し、成人T細胞白血病、B細胞リンパ腫、胃がんなど31例で、PD-L1遺伝子の部分的な欠失(3’-UTR欠失)によってPD-L1が過剰に作られることを突き止めたのです。そのなかにはEBウイルスの感染によると思われる胃がんがあり、発がんウイルスが、細胞増殖機構の破綻だけでなく、免疫回避にも関わる可能性も示しました。いずれの点もインパクトがあり、高く評価できると思います。
PD-L1遺伝子の3’-UTR欠失による免疫回避は、がんの免疫チェックポイントの主要なメカニズムではありませんが、PD-1抗体治療の効果予測マーカーに使うことなど、新しい治療の標的となる可能があるかもしれません。今後の臨床試験での検証が重要になると思います。
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