英国 精密育種法(Precision Breeding Act)に関する専門家コメント
・これは、2025年5月29日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。
・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。
<SMCJ、SMC-UK発サイエンス・アラート>
タイトル 専門家コメント
精密育種法(Precision breeding act)の施行に必要な二次立法が5月13日英国にて可決され、英国は精密育種(含 ゲノム編集)された作物の商業生産と販売を許可するヨーロッパ初の国となりました。本件に関する研究者のコメントをお送りします
関連リンク:https://www.legislation.gov.uk/uksi/2025/581/introduction/made
山口夕 教授、小泉望 教授
大阪公立大学
<コメント本文>
精密育種とは、ゲノム編集技術を応用した育種(品種改良)のことです。これまで交配や変異原処理などにより10年近くの時間を掛けて行っていた育種を、遺伝子をピンポイントで狙うことで効率よく行うことができます。自然界又は従来育種で起こる範囲内の遺伝子変化のものを精密育種(ゲノム編集)食品としているので、安全性は従来育種と変わりません。 精密育種法(Precision breeding act)の施行に必要な二次立法が5月13日英国にて可決されゲノム編集作物の、商業化が現実のものとなろうとしています。
一方で、EUでは2018年にゲノム編集作物を遺伝子作物と同様に扱うという裁定がEUの欧州司法裁判所からなされました。その後、この裁定を緩和する動きがなされていますが、結論は出ていません。一方、英国は独自にゲノム編集食品の規制を策定し、理にかなった規制の枠組みを作りました。多くの専門家が英国で法制化が進み、ゲノム編集作物の商業栽培への道が開けることを歓迎しています。これは、研究者サイドからみれば極めて妥当な意見だと思われます。
日本では、ゲノム編集食品という言い方が一般的で、2019年に世界に先駆けて取扱いルールが定められました。所管省庁への事前相談、情報提供の上で販売されます。現在GABA高蓄積トマト、可食部増量マダイ、高成長トラフグ、高成長ヒラメが上市されています。いずれもゲノム編集食品であるという旨を公表し、希望者が入手する形となっています。他にも毒のないジャガイモや穂発芽しにくいコムギなど、日本の開発者による日本のニーズにあった新しい品種の開発が進められています。しかし、ゲノム編集食品という言葉自体がまだまだ認知されておらず、遺伝子組換え食品との混同も多く見受けられます。ゲノム編集食品について理解を深めてもらい、有効に利用していくためには、従来の育種方法も含めたサイエンスコミュニケーションが必要です。
Prof Jonathan Jones FRS
Group Leader at The Sainsbury Laboratory
<コメント本文>
本法により、生物的手段で病害虫から作物を守ることが可能になり、栄養価の高い作物の開発も進むでしょう。これはブレグジット唯一の成果と言えるかもしれません。ただし、品種が承認され農家に届くまでには最低でも5年はかかるため、EUもその間に独自の本法に倣った法制度を導入する可能性があります。政府は本法の方針を堅持しつつ、EUにはリスクは科学的に極めて低く、製品化には時間がかかることを理解してもらうべきです。
Prof Huw Jones
Chair in Translational Genomics for Plant Breeding, Aberystwyth University
<コメント本文>
EUとの関係強化は歓迎ですが、これまで英国が築いた論理的な規制の進歩を損なってはなりません。単純なゲノム編集は、必要な作物をより迅速かつ確実に開発する手段です。外来遺伝子がなく、従来育種で可能な変化なら、規制は必要ですがGM作物として扱うのは非論理的です。
Prof Angela Karp
Director & CEO of Rothamsted Research
<コメント本文>
英国が経済成長を目指すなら、後退ではなく前進を続けるべきです。育種には時間がかかります。生産課題の解決に最適な技術を自由に選択できるよう、育種家に権限を与える必要があります。それが常にゲノム編集であるとは限りませんが、他の手段が使えない場合、ゲノム編集は持続可能で強靭な作物を生み出す強力な手段となります。英国の科学への厳格かつ規制されたアプローチは誇るべきものであり、今こそそれを活かすときです。ここでの遅れは、作物の改良が現場で実現される時期、そして英国がこれまでの投資の恩恵を受ける時期を遅らせることになります。
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