日本学術会議法案について
・これは、2025年4月23日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。
・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。
<SMCJ発サイエンス・アラート>
日本学術会議法案について :専門家コメント
駒込武 教授
京都大学
<コメント本文>
日本学術会議の特殊法人化を骨子とする法案は、日本学術会議のあり方に影響を及ぼすのみならず、学術政策にかかわる意思決定をこれまで以上に非民主化するものです。2014年以後、内閣府に設置された総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が学術政策にかかわる強大な権限を段階的に獲得、首相を議長として、主要閣僚6名と首相が任用する「有識者」7名を議員とするこの合議体において、ただひとり「関係機関の長」という資格で議員に名を連ねる学術会議会長は、学術界を代表して民主政治に不可欠なチェック・アンド・バランス機能を働かせる責務と権能を負った存在です。
ところが、新法案では首相が任命する「監事」や内閣府に設置する「評価委員会」を通じて、内閣府が学術会議を監視し評価する仕組みを強化し、「互選」による会長選出制度にも変更を加えています。日本のような議員内閣制の国で内閣府の権限強化は、行政を政権与党の意向に従属させ、それぞれの省庁に蓄積された官僚の専門性をないがしろにし、議会の役割をおとしめ、執行権力独裁化への道を開くものと評せざるをえません。
定松淳 特任准教授
東京大学教養学部付属教養教育高度化機構 科学コミュニケーション部門
<コメント本文>
3月7日に閣議決定された今回の法案は、岸田内閣下の2023年6月に出された「経済財政運営と改革の基本方針2023」に基づいて設置された有識者懇談会が、石破内閣成立後の2024年12月に最終報告書を提出した流れに乗ったものです。有識者懇談会には学術界の関係者も多数入っており、2020年以来の会員任命問題も踏まえ、日本学術会議の自律性を高めようという意図が掲げられています。
これに対し大学関係者の間には、2004年に国立大学が法人化して以降、結果的に政府からの統制が強まっているという認識が広く存在するために、今回の法案にも警戒心が強く見られます。たとえば実際、最終報告書では「主務大臣による法人の長の任命と中期計画の認可は行わない」となっていたところ、法案では「内閣総理大臣は(略)会議の監事となるべき者を指名する。」、「会議は(略)内閣府令で定めるところにより、当該事業年度以後の六事業年度についての会議の業務の運営に関する計画(略)を定めなければならない。」となっており、日本学術会議からは修正を求める声が上がっています。
一方で、世論一般において、日本学術会議側へ強力な後押しが見られない面も否定できません。顕彰機関としては日本学士院があり、政策形成機関としては総合科学技術・イノベーション会議が存在するために、存在意義が不明確になっている面も大きいと思われます。また昨今の格差社会のなかで「税金で自分の好きなことをやっている恵まれた立場だろ」といった見方もあるようです。しかし、“真理(普遍性)”を志向する学術界を代表して国家よりも広い観点から独立に発言しうる組織は、社会にとって他に代えがたい意義を持っています。日本政府の見識が問われていることになりますし、日本学術会議自身もその意義を示していく必要があります。学術界内部の団結を高めていく必要もあるでしょう。もし実際に政府からの締め付けが強まるのであれば、学術界自らのための組織として、全ての研究者が費用を出し合うような形態を検討する必要もあるのかもしれません。
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