2025321
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鳥の脳が人間の発話の秘密を解明に寄与する可能

・これは、2025年3月19日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

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<SMCJ発サイエンス・アラート>

マウスを用い鳥の脳が人間の発話の秘密を解明に寄与する可能:専門家コメント

この研究では、インコが人間と類似した脳のメカニズムを使って複雑な音を生成する可能性が示された。セキセイインコは人間の言葉を模倣する能力があり、研究者はその脳内プロセスが人間の発話と共通していると仮説を立てた。研究では、セキセイインコとシマエナガ(発声学習が限定的な鳥)を比較し、発声の神経活動を分析した。その結果、セキセイインコは前弧胞核の中心部(anterior arcopallium central nucleus)を利用し、脳幹を通じて鳴管(syrinx)を制御することで多様な発声が可能であることが判明した。この発声メカニズムは、人間の発話に関わる脳領域と類似しており、インコが発話の研究や言語障害の治療モデルとして有用である可能性が示唆された。

【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41586-025-08695-8

【掲載誌】Nature

関義正 教授

愛知大学文学部心理学科

<コメント本文>

本論文は発声中のセキセイインコの脳から電気的活動を記録し「低音」「濁り」「響き」などを特徴とする各音の生成に関わる神経細胞の存在を示しました。鳥類の一部にはヒト同様、発声模倣(聴覚経験による新たな発声レパートリーの獲得)能力があることから、過去数十年間、キンカチョウという鳴禽がヒトの発話研究のモデル動物として本論文と同様の手法を用いた研究の対象となってきました。ただし、このトリのさえずりを構成する音のパターンはさほど多くなく、音間に明確な区切りを持つため、分析が容易である一方、ヒトの発話とは質的に大きく異なります。対するセキセイインコの発声はヒトの発話同様、異なるパターンでありながら特徴を共有する多様な音から構成され、ときに複数の音がつながって発せられます。そのため、ヒトの発話研究の優れたモデルとなり得るものの、発声中の神経活動記録および音の分析の難しさから、今までこれに類する報告がありませんでした。この点で本論文は画期的なものです。

とはいえ、過去50年の鳴禽の発声に関する研究同様、この成果が直ちに臨床応用に繋がるとは考え難いでしょう。今後は21世紀的倫理感に基づく研究の進展が望まれます。

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