【英国、オーストラリア等SMC発 専門家コメント】カムチャツカ半島での地震について
SMC-UK等からのカムチャツカ半島での地震に対する専門家コメント
イギリス、オーストラリア、ニュージーランドのScience Media Centreが収集した専門家コメントの抄訳を掲載します。原文は各SMCのWebサイトをご参照ください。
SMC-UK: https://www.sciencemediacentre.org/
SMC-Aus: https://www.smc.org.au/
SMC-NZ: https://www.sciencemediacentre.co.nz/
Dr Roger Musson、英国地質調査所(BGS) 名誉研究員:
カムチャツカ地震帯は、環太平洋火山帯で最も活発な沈み込み帯の一つであり、太平洋プレートは年間約80ミリの速度で西に移動しています。1952年11月5日のM9.0の地震(セヴェロクリリスク地震)がこの地域の近代における最大の地震であり、1737年11月4日と1841年5月17日にも同様に巨大地震が発生しています。これらの地震はいずれも大きな津波を引き起こし、1952年の津波ではセヴェロクリリスクの町が壊滅し、ハワイにも甚大な被害を及ぼしました。本日の地震でもカムチャツカで深刻な津波が発生し、日本やハワイにも到達しており、津波警報が発令されています。
沈み込み帯はセグメントごとに動いており、今回の地震は1952年と1923年の大地震の間のセグメントで発生したようです。これが応力の状態にどう影響するかは今後の研究が必要ですが、多くの余震が予想されます。なお、1737年の地震後の12月17日に発生した余震はマグニチュード7.5程度で、こちらも津波を引き起こしました。
Dr Jonathan Dale、レディング大学 地理・環境科学学部 講師:
今回の津波は、地震の震源地と規模の両面から重大な懸念事項です。地震による地殻変動で大量の海水が移動し、その結果として太平洋沿岸の広範な地域がリスクにさらされています。
今回の地震は、主要なプレート境界で発生したことから、地震が起こる確率は常に存在していましたが、注目すべきはその規模です。マグニチュード8.8は、2004年のスマトラ沖地震や2011年の東日本大震災には及びませんが、観測史上6番目に大きな地震と見なされる可能性があります。
Dr Stephen Hicks、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL) 環境地震学講師・NERC独立研究フェロー:
今回のカムチャツカ半島でのマグニチュード8.8の地震は、2011年の日本・東北地方太平洋沖地震(M9.0)以来、地球上で最大の地震であり、観測史上有数の巨大地震です。
このような地震は「メガスラスト地震」と呼ばれ、最大級の断層破壊や津波を引き起こします。こうした断層は何百年も蓄積された運動をロックし、ある時点で一気に数十メートル滑ることでエネルギーを放出します。震源点は地図上では点として描かれますが、実際には数百キロに渡る広大な範囲が断層破壊を起こしており、これが高いマグニチュードの原因です。
地震動は震央から数百キロ離れた場所にまで影響を与える可能性があり、建物の倒壊、地すべり、液状化現象を引き起こすおそれがあります。カムチャツカ地域は人口密度が低いとはいえ、米地質調査所(USGS)は約20万人が震度8レベルの「強い揺れ」に見舞われたと推定しています。
Dr Caroline Orchiston、オタゴ大学 サステナビリティ研究センター 所長:
本日カムチャツカ半島沖で発生した地震の被害は、米国地質調査所(USGS)によると人口は比較的少ない地域であり、地元住民や建物への被害はあまり大きくならないと見られています。
現時点でマグニチュード5以上の余震がすでに10回確認されており、最大はM6.9でした。これは、大規模地震が即座に始まる余震の連鎖を引き起こし、その中には単独でも被害を及ぼす可能性があることを示しています。地元住民にとっては、今後数週間から数年にわたって継続する余震による心理的・社会的な影響が大きくなることが懸念されます。
ニュージーランドは震源から9,600km以上離れています。1960年のチリ地震(M9.6)の際には、沿岸の一部で最大5.5メートルの津波が確認され、10〜12時間かけてニュージーランドに到達しました。
Prof John Townend、ビクトリア大学ウェリントン校 地球物理学 教授:
カムチャツカ近郊で発生したマグニチュード8.8の地震は、2011年の東北地方太平洋沖地震(M9.1)以来、世界で発生した最大の地震です。
これまでの地震観測に基づくと、今回の地震では150km×400kmの範囲で10メートル以上の断層すべりがあった可能性があり、今後の分析で詳細が明らかになるでしょう。また、この地震は7月20日に発生したマグニチュード7.4の地震に続いており、現在ではそれが前震であったと認識されています。
今回の地震が放出したエネルギーは、2016年のカイコウラ地震(M7.8)の約30倍であり、2011年の東北地震の約1/3に相当します。
Dr Rebecca Bell、インペリアル・カレッジ・ロンドン 准教授:
今回の地震はメガスラスト断層上で発生しました。これらは地球上で最大の断層であり、大規模な地震を引き起こす可能性があります。今回の震源では太平洋プレートが北アメリカプレートの下に沈み込んでおり、300〜400kmにわたり断層破壊が生じたと考えられます。
震源の深さは20kmとされており、浅い部類に入ります。こういった浅い部分での断層破壊は海底の大きな変位を引き起こし、津波の発生につながります。この地域では1952年にもM9.0の地震が起きており、今回の地震も予想外というわけではありません。
Prof Joanna Faure Walker、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL) リスクと防災学部 学部長:
津波は、ジャンボジェット機と同等の速度で海を横断します。そのため、地震の発生場所によっては、海岸沖で発生した場合、(津波到着までの)警報が数分間しか続かない場合もあれば、海の反対側で発生した場合、(到着まで)数時間かかる場合もあります。
津波の高さは、通過する水深に依存します。海岸から離れた海洋では、津波は測定機器でしか検出できない場合があります。しかし、海岸に近づくにつれ水深は浅くなるため、津波の速度が低下し、波高が増加します。最悪の場合、数メートルに達する可能性があります。
Dr Mohammad Kashani、サウサンプトン大学 構造工学 准教授:
米国地質調査所(USGS)によると、この地震の震度は8.8を記録し、震源の深さは20.7kmと、浅い地震と考えられています。こうした浅い地震は莫大なエネルギーを放出しており、今回の場合、震源地が海岸線に近かったことで津波が引き起こされました。
地震の破壊力は、主に 2 つの肝心な要素、すなわちマグニチュードと深さによって決まります。内陸で発生する地震は通常、津波を引き起こしません。津波を引き起こす可能性のあるのは、海岸線沿いや海底で発生する地震のみです。
現段階では、ロシアの被害の程度を正確に評価するのは時期尚早です。今後数日間でより多くの情報が入れば、影響についてより明確な理解が得られるでしょう。
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