1日7,000歩のウォーキングが慢性疾患、認知機能低下、死亡リスクを低下させる
1日7,000歩のウォーキングが慢性疾患、認知機能低下、死亡リスクを低下させる
16万人以上の成人データを解析した大規模な研究により, 1日約7,000歩の歩行が1日約2000歩の歩行に比べて、全死亡リスクを47%、心疾患を25%、2型糖尿病を14%、認知症を38%、うつ病を22%、転倒を28%、がんを6%それぞれ低下させることが明らかになった。また、大半の項目では7,000歩を超えると効果が頭打ちになる傾向が見られた。57件の研究を対象に、うち31件をメタ解析に含んだ本研究は、歩数と複数の健康アウトカムとの関連を総合的に評価した初の試みとなる。従来の1万歩という目標よりも現実的な「1日7,000歩」を新たな推奨値とすることで、より多くの人に実行可能な健康改善法を提示できる可能性があると研究チームは述べている。論文は、7月24日, The Lancet Public Healthに掲載された。
【掲載誌】The Lancet Public Health
【報道解禁(日本時間)】7月24日8時30分
【専門家コメント】
清野諭 山形大学 Well-Being研究所 助教
本研究は、歩数と健康アウトカムとの関係を包括的に検討した、過去最大規模の統合分析です。従来は死亡や心疾患に限られていた健康アウトカムが、幅広い疾患に拡張された点が大きな特長です。また、外出しない日の目安である1日2,000歩と比べて、「何歩でどの程度リスクが低いか」が示されており、日常生活に取り入れやすい実践的なメッセージとなっています。
7,000歩という目安が強調されていますが、注目すべきは、7000歩に届かなくても健康上の意義があるという点です。2,000歩に比べて、わずか1,000歩(約10分)多いだけでも、主要な疾患リスクが有意に低値を示しています。これは、日々の小さな積み重ね(ちょい足し)の重要性を裏付けています。なお、1日12,000歩といった高い活動量でも有意な弊害は確認されておらず、個々の体力に応じてさらに歩数を増やすことも有益と考えられます。
令和6年度から開始された「健康日本21(第三次)」では、歩数の目標値が7100歩(20~64歳:8000歩、65歳以上:6000歩)に設定されており、本研究結果とも整合しています。猛暑が続く中ではありますが、屋内での活動や日常生活の中で「あと10分多く動く=プラス・テン」を意識することが、無理なく続けられる健康づくりの第一歩です。
渡邉大輝 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 研究員
Dingらによる最近の研究は、16万人超の歩数データを用いて、死亡や慢性疾患、認知症、うつ病など多様な健康アウトカムとの関連を初めて包括的に検討した大規模解析であり、1日7,000歩が一つの有効な目安と示されました。日本人高齢者を対象とした先行研究でも、1日5,000〜7,000歩で歩数により死亡リスクへの有効性が頭打ちすることが示されており、今回のDingらの結果とも一致しています。特に歩数が少ない人では、現在よりも多く歩くことで健康改善に寄与する可能性が高いと考えられます。令和5年の国民健康・栄養調査によると、20歳以上の平均歩数は男性6,628歩、女性5,659歩であり、過去10年間で有意に減少傾向にあります。特に65歳以上の高齢者では、男性5,329歩、女性4,419歩とさらに歩数が少ないです。2024年度に開始された健康日本21(第三次)では、成人男女8,000歩、高齢者6,000歩が目標とされていますが、現状はそれを大きく下回っています。国民全体の歩数をあげることも重要ですが、歩数が少ない者の歩数を増やすことが重要です。
また、Dingらが考察で述べている通り、身体機能や健康状態によって「最適な歩数」は異なる可能性があり、一律の目標設定ではなく、個別化された目標設定が重要です。実際に日本人高齢者の研究では、フレイルのない高齢者は5,000〜7,000歩でリスク低下が頭打ちとなる一方、フレイル高齢者では5,000歩を超えてからリスク低下が見られる傾向も報告されています。加えて、歩数に応じた適切なエネルギー摂取量の重要性も指摘されており、歩数だけでなく、栄養状態も含めた総合的な生活指導が求められます。
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