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英・NICEによる認知症新薬に対する勧告案について

NICEが認知症新薬「ドナネマブ」「レカネマブ」の使用を奨励しないと勧告

イギリスのNICE(英国国立医療技術評価機構)が認知症新薬「ドナネマブ(イーライリリー)」と「レカネマブ(エーザイ)」の公的医療保険制度での使用を「奨励しない」という最終勧告案を発表

NICEの発表:https://www.nice.org.uk/news/articles/the-benefits-of-alzheimers-treatments-donanemab-and-lecanemab-remain-too-small-to-justify-the-additional-costs-says-nice-in-final-draft-guidance

【専門家コメント】

池田俊也 国際医療福祉大学大学院 教授

アルツハイマー病治療薬であるレカネマブおよびドナネマブについて、英国の医療技術評価機関NICE(National Institute for Health and Care Excellence)が2025年6月に公表したガイダンスのドラフトによれば、軽度認知障害から軽度認知症期において疾患の進行を4〜6か月遅らせる一定の効果が示されたものの、企業が提示した薬価や治療に伴うモニタリング等の総コストが非常に高額であるため、英国の国営医療制度(NHS)にとっては「費用対効果が乏しい」と判断され、現時点では使用を推奨しないとの結論が示されました。

両薬剤は、臨床試験において認知症の重症度を示すCDR-SBスコア等の改善が確認され、統計学的には有意、すなわち薬に効き目があるとされましたが、その効果は限定的であり、実際の臨床現場で患者や家族が明確に効果を実感できるレベルではないとNICEは評価しています。こうした判断は、公的財源に制約のあるNHS制度のもと、QALY(質調整生存年)を基盤とした標準的な費用効果分析の手法に従った、制度上合理的な対応といえます。

一方、アルツハイマー病治療薬には、認知機能の進行抑制にとどまらず、介護負担の軽減、患者の自立支援や社会参加の継続など、多面的な社会的価値が期待されます。しかし、こうした要素は現行の評価手法に十分反映されておらず、今回のドラフトにおいても、介護者の生活の質など非QALY的要素の取り扱いが課題として明記されています。

今後、認知症治療薬の適切な評価と普及を図るためには、現行の枠組みに加えて、介護者の視点や社会的影響を柔軟に取り入れた、より包括的な評価手法の導入が求められており、その必要性があらためて浮き彫りになったといえます。

※COIについて:池田教授はドナネマブおよびレカネマブの製造販売企業であるエーザイ株式会社およびイーライリリー株式会社との共同研究を行っておりますが、両薬剤に直接関連する共同研究はしていません。

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