2025618
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米国政府の留学生への対応について

専門家コメント – 米国政府の留学生対応

太田浩 一橋大学全学共通教育センター 教授

1. 米国政府による本政策の日本への現時点での影響や今後の展望

米国政府(国務省)は、世界中の米国大使館・領事館に留学生ビザ審査のための面接の受け付けを停止するよう命じました。これにはFビザ(学生ビザ)だけでなく、M(専門学校生)ビザ、J(交流訪問者)も含まれており、学位取得留学だけでなく、小中高大の英語教師の米国研修、医師の臨床研修、日本から米国への交換留学、訪問・招へい研究、夏休みの短期語学研修(数週間でもビザが必要な場合が多い)、フルブライト奨学金での留学なども影響を受けます。

一般的に、5月までに入学(受入れ)許可書と在留資格認定証明書(I-20など)が発行され、6月~7月にビザの申請を行い、8月後半~9月に渡米する流れです。その直前にビザ面接受け付け停止が起こったため、影響は甚大です。今後については、不確実・不透明と言わざるを得ません。

日本の大学では、米国での夏季語学研修と交換留学が大きな影響を受けています。前者は従来F-1ビザの取得が多かったのですが、スタディ・ツアー扱いにしてビザなし渡航(ESTA)に切り替える方向で米国の大学と協議しています。後者については、①米国の協定校からの受入れ可否の連絡を待つ、②代替留学先として他国の協定校に調査、③米国以外の留学意志を学生に確認する、といった対応が取られています。

欧州を中心に米国以外の大学も受入れ先の開拓を急いでおり、日本も有力な留学先として見られています。

2. 日本の教育機関における留学生や海外研究者の受け入れ体制の現状・課題

日本の大学は、米国に在籍・留学予定の学生(日本人・外国人を含む)の受入れを検討しており、対応策を公開する大学もあります。詳細は以下のサイトで確認できます。

これらは日本人向け海外留学サイトに掲載されており、まず日本人学生の救済が優先されていることが分かります。ただし、日本は正規生の定員管理が厳格で入試制度や学事暦が米国と異なるため、科目等履修生や研究生など非正規生での受入れが中心となっています。そのため学習者の視点より大学の事情が優先されている印象があります。学費免除を掲げる大学もありますが、日本人学生間での格差が懸念されます。

外国人学生については、短期的には日本が米国留学の代替先となる可能性は低いですが、長期的にはアジアに位置する日本に大きな機会があります。しかし、定員管理や学事暦の違いが障壁です。文科省が臨時定員増を認め、迅速な選考で新規入学や編入学を認める仕組みが必要です。

米国に留学予定の外国人学生が一時的に日本に避難的留学を希望する場合は、科目等履修生や研究生としての受入れが現実的ですが、日本留学の魅力を高めるには不十分です。理想的には、日本人・外国人双方に「学位取得留学」と「単位取得留学」の二つの選択肢が用意されるべきです。

韓国は留学生を定員外で受け入れ、授業料も高く設定できるため、大胆な留学生獲得策に出る可能性があります。

3. その他

カナダ、英国、豪州、オランダでは、地政学的緊張や安全保障、移民・住宅問題により留学生受入れの抑制が進んでいました。今回の米国の政策転換により、高等教育はグローバル化による自由な市場から、政府の介入によって流動性が管理される時代に移ったと言えます。つまり、グローバル化と新自由主義が収束し、経済安全保障と国家主権を優先する新しい国際学生交流の形を模索する段階に入ったのです。

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