配信日:2025年8月29日
幼少期の抗生物質投与と自己免疫疾患のリスクとの関連性
8/22に PLOS Medicine に掲載された以下の論文に関して収集した専門家コメントを掲載します。
【論文リンク】PLOS Medicine<(論文ページ)
【掲載日】2025年8月22日
【専門家コメント】
横道洋司 山梨大学大学院 疫学・環境医学講座 教授
韓国の大規模調査では、妊娠中や生後6か月までに抗生物質を使うことと、子どもの自己免疫疾患発症との間に明確な関係が認められませんでした。抗生物質を早期に使うと子どもの免疫に影響するかどうかは、これまで結論が出ていません。今回の結果はその懸念を減らすものです。
日本では、生後3ヶ月以内の乳児の発熱に対して抗生物質を使用することが多いです。ワクチン接種を完了しておらず、細菌感染のリスクが高いからです。また妊婦の一部は常在菌としてB群溶血性連鎖球菌という細菌を直腸や膣に持っています。これに感染した新生児は、まれに重症感染症を発症するため、分娩時に妊婦に対して抗生物質が投与されることがあります。
抗生物質は細菌感染を治療するために欠かせない薬ですが、風邪症候群で多いウイルス感染には効きません。抗生物質を過剰に使うと、それに対する耐性菌が増える恐れがあるため、海外でも日本でも、必要なときにのみに使うという適正使用が勧められています。その原則を守りながらも、この調査結果は、必要なときは妊婦や乳児に対して躊躇せず抗生物質を使うことを後押しします。
この研究で抗生物質の使用が自己免疫疾患の発症につながるか、という疑問に決着がついた訳ではありません。このような疫学研究だけでは原因と結果を断定することができないからです。他の研究手法でも因果関係を証明することは容易ではありません。この調査結果は参考として結論は保留にし、今後も適正使用を徹底することが大切です。