配信日:2025年9月2日
オーストラリアにおける16歳未満に対するSNS利用禁止に向けた年齢認証技術試験について
オーストラリア連邦政府は、独立した「年齢認証技術試験」の最終報告を公表した。同報告では「オーストラリアにおいて、プライバシーを守りつつ効率的かつ効果的に年齢確認を行うことは可能である」と結論づけている。また「万能な解決策は存在しないが、年齢確認システムの利用を妨げるような大きな技術的制約はない」ともしている。以下に、オーストラリアの専門家によるコメントを紹介する。
【AusSMCが収集したコメント原文リンク】原文コメント
【専門家コメント】
Dr Belinda Barnet, Senior Lecturer in Media at Swinburne University and an expert on media and privacy
予想通り、報告書は複数の方法においてプライバシーやセキュリティ上の懸念があることを指摘しています。しかし、私たちのデータを不必要に保存することなく年齢確認を提供できる第三者認証プロバイダーが存在することも示されています。私は個人的には、Facebookにパスポートを渡すのではなく、信頼できる第三者による方法を採用すべきだと考えます。
Associate Professor Faith Gordon is an Associate Professor in Law at the Australian National University
年齢認証技術は、子どもたちにとってデジタル世界を安全にするための“万能の解決策”ではありません。今回の試験は、一部の生体認証方法には将来性があるものの、依然として誤りや偏り(特に女性や肌の色が濃い利用者に対して)が残ることを示しました。調査結果は、普遍的に機能する単一の解決策が存在しないことを確認しており、プライバシー、データ収集、排除の可能性に関して深刻な懸念を提起しています。より広く見ると、これらの技術開発は、オーストラリア人がオンライン・プラットフォームにアクセスし体験する方法に大きな転換をもたらすものであり、その影響は青少年向けのSNS規制をはるかに超えて広がることになります。
Professor Daswin De Silva, Professor of AI and Analytics and Director of AI Strategy at La Trobe University
法律の施行を数か月後に控え、連邦政府が年齢認証技術試験の最終結果を公表しました。報告書は明確かつ決定的な解決策を提示するのではなく、“合理的な信頼度”をもって利用可能な複数の手法とその信頼性やプライバシーの限界を示しています。 方法は以下に分類されています: 年齢確認(age verification):公的な身分証明書で生年月日を確認 年齢推定(age estimation):顔・声・動作データをAIで解析して年齢を推定 年齢推論(age inference):有権者名簿や学年など、第三者の文脈的・行動的・取引的データを利用さらに、これらを組み合わせる「ウォーターフォール方式」も紹介されています。
年齢確認や年齢推論はプライバシー保護が低く、特に子どもに関する機微な情報は将来的にリスクにさらされる可能性があります。一方、年齢推定はプライバシー保護が高いものの、AI利用は不正確で偏りや差別を伴うリスクがあります。複数の方法を組み合わせるのは最も効果的ですが、“完全なデジタルプロフィール”が作成・追跡・流出するリスクを高めます。 この報告書は、特定の技術や提供者、優先順位リストを示すのではなく、多様な指標に基づく幅広い選択肢を提示する“環境スキャン”としての役割を果たしています。次に取るべき具体的行動を決めるにはさらなる研究が必要です。また、国際的な事例との比較が欠けている点も課題です。報告書はこれらの技術提供者を“ダイナミックで革新的”と評していますが、それは裏を返せば、この技術が他のどこで使われているのか、私たちの個人データがどの程度収集されているのかという新たな疑問を生じさせます。
Dr Shaanan Cohneyis, Senior Lecturer & Deputy Head of School Academic (Strategic), in the School of Computing and Information Systems at the University of Melbourne
政府の年齢認証報告は膨大ですが、内容は結論を十分に裏付けていません。セキュリティやプライバシー研究者(まさにこのようなシステムを検証する訓練を受けた分野)が排除されたことから、重大な欠陥が生じた可能性があります。さらに、報告書は年齢認証技術に商業的利害を持つ組織によって作成されており、独立性に対する正当な懸念を引き起こします。
問題点は多岐にわたります。例えば「年齢推定は導入可能で実用段階にある」としながらも、実際には年齢層ごとに深刻な欠陥があると記載しているなど、一貫性に欠けています。さらに深刻なのは、若者が技術を回避する現実的な方法をモデル化していないことです。こうした弱点こそ、サイバーセキュリティの核心手法である“対抗的テスト”で明らかになるはずです。しかし報告書は方法論を曖昧にし、“修正は開発中”との保証に依存しています。
現実には、子どもがゲームキャラクターにスマホを向けてシステムを欺くといった簡単な回避方法がすでに報告されており、私自身のテストでも、報告書が示す以上に高頻度で成功しました。要するに、この報告書はリスクを過小評価し、効果を過大評価しており、社会全体に大きな影響を与える介入に求められるセキュリティ・プライバシー基準を満たしていません。
Dr Alexia Maddox is a Senior Lecturer in Pedagogy and Education Futures at La Trobe University
1. 政策の根本的矛盾 政府自身の年齢認証技術試験は、オーストラリアのSNS禁止政策の根幹に重大な矛盾を明らかにしています。文書ベースの年齢確認は非常に高精度で、最も信頼性の高い方法ですが、法律ではこの技術の利用を明示的に禁止しています。その代わりに、プラットフォームは誤差が平均1.3〜1.5年の「確率的分類」に基づく年齢推定に頼らざるを得ません。特に思春期の子どもは顔の変化が大きく、誤判定のリスクが高い。つまり、オーストラリアは最も正確な技術を禁止しながら、正確な結果を要求しているのです。
2. 保護者の選択肢の排除 試験では、保護者による管理・同意システムは「実施可能で効果的」とされ、段階的リスク管理や家庭中心のデジタル教育を支援する高度なツールを提供できると示されました。しかし法律は保護者の選択を完全に排除し、子どもの準備状況に関する判断にかかわらず、親が上書きする手段を持ちません。その結果、監督と安全対話を伴って徐々にSNSを導入する教育的経路が失われ、16歳で一気に「全面禁止」から「全面解禁」に移行させられることになります。
3. 政策とエビデンスの逆転 オーストラリア政府は手順を逆に行いました。まず2024年11月に世界初のSNS禁止法を制定し、その後に技術試験を組み込み、結果は法律施行後に公表されたのです。試験自体も「これらの技術を導入すべきかどうかを政策的に勧告する範囲にはない」と明言しており、この手続きの逆転こそが、政策上の前提と技術的現実の乖離を説明しています。
4. より危険な空間への移行 禁止措置はむしろ逆効果となるリスクがあります。高度なコンテンツ監視・通報機能・AI安全対策を備えた大手プラットフォームから締め出された子どもたちは、メッセージアプリやゲーム、海外サービスなど、より安全性の低い空間へ移行する可能性があります。結果的に、保護者による監督を可能にする有効なツールを失い、アルゴリズム操作がさらに巧妙で有害な場に子どもを押しやってしまうのです。
5. 技術実装の危機 試験の技術スタック分析は、多くの年齢推定ソリューションが依然としてプロトタイプ段階にあることを示しました。法律は「最も信頼性の高い方法を禁止しながら正確な結果を要求」「データ保持を禁じながらコンプライアンスのためデータ処理を要求」「実績ある保護者ツールを排除しながら家庭に安全管理を求める」といった技術的矛盾を生み出しています。こうした矛盾はシステムを失敗に追いやり、子どもをより危険にさらす可能性があります。
6. 多様な人々の包含 試験では、システムは多様な利用者に対して概ね良好に機能したとされていますが、特に遠隔地や非常に僻地では、デジタル排除や基礎的証明書の欠如によりアクセスが制限される課題が依然として残っています。
