配信日:2025年9月6日
地域や生活環境によって程度が異なる熱波への暴露が老化を加速させる可能性
8/26にNature Climate Changeへ掲載された以下の研究成果に関する専門家コメントをお送りします。
【論文リンク】
https://www.nature.com/articles/s41558-025-02407-w
【掲載誌】Nature Climate Change
【専門家コメント】
高倉 潤也 国立環境研究所 社会システム領域(地球持続性統合評価研究室)主任研究員
暑さが人の健康に対して与える影響としては、熱中症がイメージしやすいと思います。日本でもここ最近の熱中症による死亡者は年間1千人を超える数で推移しており、深刻な問題です。一方で、暑さは熱中症のような短期的な影響だけでなく、長期的にも健康に影響を与えることが知られており、暑さに曝(さら)されることにより、生物学的な「老化」が早まる可能性があることも指摘されていました。
この論文では、台湾在住の24,922人の成人を対象として、生物学的な老化の度合いと熱波に曝された経験の関係を調べています。生物学的な老化の度合いを測る方法はいくつか提案されていますが、この論文では、生理学的検査で得られるバイオマーカーから推定した生物学的年齢と暦年齢(暦の上での年齢)の差を生物学的老化の加速の指標として用いています。結果としては、居住地が熱波に曝される機会の多かった対象者ほど、わずではありますが生物学的な老化が加速していることが示されており、これは先行研究とも矛盾しない結果です。
暑さが人の健康に対して与える短期的な影響については比較的データを集めやすいのに対して、長期的な影響についてはデータも少なく、今後も更なる研究知見の蓄積が必要です。これは、今後、数十年のスパンで更に進行していく気候変動や高齢化に対処するためにも重要な課題です。