2025106
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自閉症の診断年齢と遺伝的特徴について

自閉症の診断年齢と遺伝的特徴について

配信日:2025年10月1日

Natureに掲載された研究で、自閉症の診断年齢は、自閉症患者間の生物学的・発達的差異を部分的に反映している可能性があることが明らかになりました。従来、自閉症の診断年齢に社会的・人口学的要因が関連することは示されていましたが、遺伝的要因の役割は十分に研究されてきませんでした。近年、人生の後半で自閉症の診断を受ける人が増えており、「自閉症」という言葉が包括する神経発達条件上の差異を理解することの重要性が高まっています。研究チームは、4つの出生群から得た行動データと、2つの大規模研究から得た遺伝データを用いて、自閉症診断年齢の変動要因を調べました。その結果、2つの異なる社会情緒的・行動上の経過が診断時の年齢と関連し、共通の遺伝的バリアントが診断年齢の変動の約11%を説明していることがわかりました。

DOI:10.1038/s41586-025-09542-6

内匠 透 神戸大学大学院医学研究科 教授

–論文に対する評価・意見

自閉スペクトラム症(ASD)は多様性があることがよく知られており、本論文は、ASDが単一の「多遺伝子形質」ではなく、診断された年齢によって発達の軌跡と遺伝的背景が異なることを示しています。具体的には、(1)幼少期に早く症状が表れる群と、(2)学童後期〜思春期に表れる群(後期診断群)という2つの軌跡が、複数の出生コホートで確かめられました。

診断年齢は一部が自己・保護者申告で、測定誤差を含みます。また、ヒト遺伝解析の主な対象は欧州系で、日本を含む多様な祖先集団への一般化はまだ不十分です。それでも、「診断年齢を明示的に扱う」ことの重要性を示した意義は大きく、今後の表現型の定義や層別設計(とくに性差や併存症の研究)に役立ちます。

後期診断群では、ADHD・うつ・自傷などの精神症状との遺伝的な結びつきが強い可能性が示されました。臨床現場では、思春期を中心にメンタルヘルス支援が有効と考えられます。

–本内容に関連する日本の状況

日本はASDの診断年齢が相対的に遅い傾向があります。一方で、18・24か月健診相当でM-CHAT日本語版などが活用されてきました。ただし、幼児期に拾えないケースもあるため、学童期への移行時に二次スクリーニングを制度化することは、本論文の「後期軌跡」を拾い上げる上で有効です。

日本でも成人ASDは注目されており、成人ASDでは精神科的ニーズが高いと言われています。さらに、未診断の自閉特性が職場の生産性低下と関連する可能性も指摘されています。後期診断群で精神症状が強いという知見は、日本でも思春期〜若年成人期のメンタルヘルス支援強化の必要性を裏づけます。

近年の全エキソーム解析では、東アジア特異的なASDリスク遺伝子も報告されています(Tamada & Takumi, Biol Psychiatry, 2023)。依然としてヒト遺伝学は欧州系への偏りが大きく、日本・東アジア集団で「診断年齢による層別」を組み込んだGWASは不足しています。

Uta Frith, University College London 教授<

この論文は、自閉症が単一の状態ではないことを示しています。早期に診断された子どもと遅く診断された子どもは、臨床的特徴や遺伝的特徴の点でほとんど重ならない、まったく異なる二つのサブグループを形成していることが明らかになりました。

このことは、今後さらに多くのサブグループが明らかになり、それぞれに適切な診断名が与えられる可能性があることを期待させます。もはや「自閉症」という言葉が、異なる状態の寄せ集め(ragbag)になっていることを認識する時期に来ています。もし「自閉症の流行」や「自閉症の原因」「自閉症の治療」といった話が出た場合には、まず「どのタイプの自閉症なのか」という問いを立てる必要があります。

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