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Science Alert: 生分解性の竹プラスチックを開発

生分解性の竹プラスチックを開発

配信日:2025年10月12日

中国の東北林業大学の研究者らは、竹由来のセルロースから強固で生分解可能なプラスチックを作る手法について報告しました。従来の竹複合プラスチックは完全に分解されず、機械的特性にも難点がありましたが、本研究では無毒のアルコール溶媒で竹セルロースを分子レベルまで溶解後に再構成することで、強固な分子ネットワークを形成させました。その結果、引張強度110MPa、破断エネルギー80 kJ m⁻³と、石油系プラスチックや既存のバイオプラスチックを上回る性能が示されました。また、機械的・熱的な安定性や成形性も既存プラスチックなどと同等以上で、産業利用に適していることが示されました。さらに、土壌中で50日以内に分解でき、クローズドループリサイクル(再び同等製品に作りかえるサイクル)においても90%の強度を保持しました。研究グループは、環境負荷を低減しつつ高性能を維持する持続可能な代替プラスチックとしての活用を目指しています。論文は10月8日、Nature Communications に掲載されました。

宇山 浩 大阪大学 工学研究科 応用化学専攻 教授

本論文の研究は、竹セルロースを深共晶溶媒(水素結合を介した2種以上の化合物からなる溶媒。環境にやさしいとされる)により分子レベルで溶解し、ゲル化およびエタノール処理を介して水素結合を再構築するという新たなプロセスにより、高強度で多様な加工が可能なバイオプラスチックを生成した、とする点に大きな特徴があります。従来のセルロース系材料は脆さや成形のしにくさが課題でしたが、本研究はそれを克服し、引張強度や曲げ弾性率といった、一部の特性において、既存の石油系プラスチックを凌駕する性能を示しました。

「セルロースを一度分子レベルに解きほぐし、再構築する」という方法は、確かに革新的であり、バイオマス資源から高性能材料を得るための有望な戦略であると評価できます。ただし、本成果を「既存プラスチックの完全な代替」と見なすことには慎重であるべきでしょう。論文で強調されているのは、主に強度や耐熱性などの限られた性能であり、実際の産業用途に不可欠な耐水性や軽量性など、幅広い物性について、石油系プラスチックと比較検証がなされたわけではありません。加えて、成形においては基本的に溶媒を介しており、セルロース自体は熱可塑性を持たないため、射出成形や押出成形など既存の高速生産プロセスをそのまま適用できるかについても疑問が残ります。さらに、溶媒のリサイクル効率や長期使用における安定性も、未解決の課題です。

齋藤 継之 東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授

このグループからは似たような論文が他にも出ていますが、正直に申し上げれば、報告されている素材は、一般に想定される“プラスチック”ではありません。濡れたらふやけてしまう「再生セルロース」です。性質として、紙やセロファンと全く同じであり、“プラスチック”として工業上最も重要な熱可塑性はありません。

論文中で、一度乾燥させたセルロース(再生セルロース)をエタノールで湿らせれば再成形できるという主張をされていますが、これは従来の紙やセロファンでもできることです。強度等の値についても、従来の値とほぼ同じです。加えて、使用している溶剤(ZnCl2/FA)は毒性があり、リサイクルできません。

論文中でリサイクルできると主張しているのは、再生セルロースを再びフレッシュな溶剤に溶かして固めているだけであり、最も重要な溶剤自体のリサイクル性は伏せられています。

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