Professor Peter Thorne, Professor of Physical Geography, Maynooth University
Director, Irish Climate Analysis and Research UnitS (ICARUS)
【SMC Science Alert 】 COP30:パリ協定10年目にあたる気候会議についての専門家コメント
現在開催中のCOP30について、海外のScience Media Centreが収集したコメントをまとめています。
COP30における“研究と体系的観測”のセッションでは、(1)温暖化気候の動向を把握するために不可欠な長期観測システムの脆弱性、(2)GCOS・WMO・WCRPなど国際的長期協調体制の持続可能性に対する懸念、が主要議題となるだろう。
長年、我々は観測システムの大部分を米国の寛容な支援に依存してきた。真に多国間の支援体制を構築し、地球システムを観測・理解する能力を持つことが不可欠だ。「観測しなければ理解できない」。観測の途絶を最小限に抑える必要があり、SOFF(Sustained Observations Financing Facility)などを通じた観測ギャップ対処を継続すべきだ。
来週、世界のリーダーがCOP30に集まる中、ハリケーン・メリッサの破壊的影響が議論に影を落とすだろう。大西洋史上最強のカテゴリー5ハリケーンとして10月28日にジャマイカへ上陸し、最大風速約300 km/hで地域を襲った。当時の海水温は1979–2000年平均より約1.4 °C高く、TOPIMモデルによると、その熱異常がメリッサを“通常より60 km/h弱くなったはずの強度”にまで押し上げ、破壊力を通常より1.6倍増大させた。
カリブ海は温暖化が顕著で、1965年以来10年あたり約0.2 °Cの海水温上昇が観測されている。それに伴いハリケーンの平均強度も10年あたり約5ノットずつ増加。今年だけでも大西洋で3つのカテゴリー5嵐が発生しており、2005年と並ぶ記録となっている。
ジャマイカでは32人、ハイチでは31人が死亡し、今も増加している。ジャマイカ西部ブラックリバー地域では住宅・インフラが壊滅的被害を受け、電力・水道が途絶。多くの家庭が食料と医療物資を求めて苦しんでいる。この危機は、気候変動が未来の脅威ではなく、現在進行中の緊急事態であることを明確に示している。
必要なのは、大胆な排出削減と気候資金の増額だ。世界の排出量に最も責任の少ない国々が、最も脆弱である。彼らへの支援は緊急の課題だ。
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パリ協定から10年が経過するが、COP30は極めて重要な会議だ。というのも、協定の目的と長期目標に対する世界の“集合的な進捗”を評価した初めてのCOP会議となるからだ。進捗評価により、パリ協定が世界的な気候行動を、ほぼ普遍的に推し進めたことが示されたが、一方で、私たちは、まだ、その目的・長期目標を達成する軌道には乗っていないことも浮き彫りになっている。気温上昇を1.5 °C以内に抑えるためには、野心を高めて既存の公約を実行することが急務で、議論は「超過した後に1.5 °Cまで戻す」可能性も視野に入る。
パリ協定以前、我々は産業革命前比で約4 °Cの上昇に向かっていたが、現在は2.1~2.8 °Cの上昇が見込まれている。だが、これでは十分ではない。COP30は、気候危機の規模と深刻さがこれまでになく明確になった状況下で行われている。干ばつ、洪水、嵐、森林火災など気候災害が世界のあらゆる地域を襲い、数百万人の命やインフラを脅かし、経済に深刻な影響を与え、物価を押し上げている。
各国はベレンで改訂された新たな国家コミットメント(NDC)を持参するよう求められている。現在、世界の約3分の1(アイルランドを除く68か国)が既に提出済みで、国連によれば、これらは「質・信頼性・経済的広がり」に変化がみられるという。だが、残る国々がベレンで何を約束するかが極めて重要だ。もう一つの重要議題は「資金」であり、適応資金は不足している。COP30では1.3兆ドルの気候ファイナンス動員に向けたロードマップ合意が鍵となるだろう。