【SMC Science Alert 】メガソーラー発電施設と環境保全について:専門家コメント
メガソーラー発電施設の設置をめぐる環境保全、立地、地域との調和に関する国内専門家の見解をまとめています。
石濱 史子, 国立環境研究所 主幹研究員
太陽光発電施設の環境影響について、まず核心となるのは「立地」です。生態系への影響は、出力や面積よりも、どこに施設を置くかによって大きく変わります。しかし環境影響評価法でアセスメント対象となるのは、ごく一部の極めて大規模な施設のみであり、小規模案件の多くは網羅されていません。
自治体条例による規制は進みつつありますが、景観配慮が中心です。一方、兵庫県のように小規模案件も含めて動植物への影響評価や低減措置を義務付ける例もあり、参考になります。
一方で、気候変動自体が生物多様性への最大級の脅威であり、再エネ拡大は不可欠です。そのためには、保全上重要な森林・希少種の生息地・良好な里地里山を開発から除外する「ゾーニング」、地域全体の累積影響を管理する戦略的アセスメントが鍵となります。
しかし実装に必要な全国規模の高解像度生物分布データは不足し、人材・資金も足りません。政府・自治体・研究者・事業者が連携してデータ整備と資源動員を進めることが急務です。経済性だけによる立地判断から脱却し、自然資本や地域住民が重視する価値を意思決定プロセスに組み込み、条件付き許容区域など段階的に運用しながら合意形成を進めることが、持続可能な導入への現実的な道筋だと思います。
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再生可能エネルギー(再エネ)導入に伴う問題点として、第一に「評価軸が多い」点が挙げられます。騒音や景観といった“感覚公害”は明確な閾値が見つけにくく、便益があれば被害感情が和らぐ人もいる一方、単純に距離規制を導入しても、規制が機能しなかったり「うるさいのに救済されない人」が生じたりします。また、「木を切ってメガソーラーを作る」計画も、CO₂削減効果のみを基準にすると現時点ではプラスに見えてしまいます。
第二に、「見えにくいリスク」が議論されにくい点です。森林伐採を完全に禁止すれば、代替としてコストの高い再エネ(洋上風力など)や新設原発、その他の脱炭素技術に依存することになり、いずれはエネルギー計画全体に跳ね返ります。気候変動により深刻な森林破壊が起こる可能性もあります。「脱炭素は都会の問題」という認識もありますが、実際には自動車利用の多い地方のほうが1人当たりCO₂排出量は多く、自治体の多くで脱炭素率は1桁%にとどまっています。
第三に、報道で目立つ個別例が「再エネ問題」の典型ではないことを理解することが重要です。太陽光発電は住宅用で300万件を超え、事業用も郵便ポストの4倍に達します。実際には地域と共存・共栄できている事例も多く、予防的な規制でこうした成功例まで阻害してしまうリスクがあります。
合意形成の鍵は「事前準備」です。炎上後ではなく、地域や自治体が合意しやすい社会的条件を整えることが重要です。「地域にとって望ましい再エネ事業のあり方」をルール化し、説明会の義務化や議事録公開などを制度として組み込むべきです。例えば、「騒音と運転状況」に関連性があれば個別に防音工事を行う旨の協定を交わす、といった仕組みです。また、出資や維持管理を地元主体にすることで地域経済効果を高めることも可能です。
さらに、コミュニケーションのデザインも重要です。通常の住民説明会では反対者が集まりやすいため、ランダムサンプリング、くじ引き、特定属性(高校生のみ、女性のみなど)で意見を聞くなど、多様な声を拾う方法を取り入れるべきです。秋田県にかほ市では議論フェーズを分けた先行事例もあり、行政が“事業のあり方”を条項化して地域貢献を組み込むなど、工夫が見られています。