【SMC Science Alert 】長寿のシロナガスクジラがもっていた、未知のDNA変異修復機構
長寿のシロナガスクジラがもっていた、未知のDNA変異修復機構
シロナガスクジラは最大寿命が200年を超え、体重も80トン以上に達する、地球上で最大級かつ最長寿の哺乳類である。巨大な体躯を持つほど細胞数が多く、発がんリスクが高まるように思われるが、クジラは高い発がん耐性を示す。この謎に迫るため、研究チームはクジラの細胞に発がん誘発刺激(紫外線など)を与え、がん化の確率を調べた。その結果、クジラの細胞はDNA損傷を受けやすい一方、強力な修復機構が働き、発がんを回避している可能性が明らかになった。さらに、クジラ由来のDNA修復関連タンパク質を特定し、このタンパク質を過剰発現させると、ヒト細胞でDNA修復が促進され、ショウジョウバエでは寿命が延長することも示された。老化と長寿のメカニズム解明に向けた新しい知見である。
【掲載誌】Nature
【掲載日】2025年10月29日
【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41586-025-09694-5
【DOI】10.1038/s41586-025-09694-5
記事のご利用にあたって
マスメディア、ウェブを問わず、科学の問題を社会で議論するために継続して
メディアを利用して活動されているジャーナリストの方、本情報をぜひご利用下さい。
「サイエンス・アラート」「ホット・トピック」のコンセプトに関してはコチラをご覧下さい。記事の更新や各種SMCからのお知らせをメール配信しています。
サイエンス・メディア・センターでは、このような情報をメールで直接お送りいたします。ご希望の方は、下記リンクからご登録ください。(登録は手動のため、反映に時間がかかります。また、上記下線条件に鑑み、広義の「ジャーナリスト」と考えられない方は、登録をお断りすることもありますが御了承下さい。ただし、今回の緊急時に際しては、このようにサイトでも全ての情報を公開していきます)【メディア関係者データベースへの登録】 http://smc-japan.org/?page_id=588
記事について
○ 私的/商業利用を問わず、記事の引用(二次利用)は自由です。ただし「ジャーナリストが社会に論を問うための情報ソース」であることを尊重してください(アフィリエイト目的の、記事丸ごとの転載などはお控え下さい)。
○ 二次利用の際にクレジットを入れて頂ける場合(任意)は、下記のいずれかの形式でお願いします:
・一般社団法人サイエンス・メディア・センター ・(社)サイエンス・メディア・センター
・(社)SMC ・SMC-Japan.org○ この情報は適宜訂正・更新を行います。ウェブで情報を掲載・利用する場合は、読者が最新情報を確認できるようにリンクをお願いします。
お問い合わせ先
○この記事についての問い合わせは「御意見・お問い合わせ」のフォーム、あるいは下記連絡先からお寄せ下さい:
一般社団法人 サイエンス・メディア・センター(日本) Tel/Fax: 03-3202-2514

体躯の巨大な生物ほど細胞数が多く、発がんリスクが高いように見える。しかし、体重が80,000 kgを超えるシロナガスクジラは決してがんに罹患しやすいわけではなく、寿命は200年に及ぶ。こうした現象は「ピートのパラドックス」として知られ、ゾウなど他の大型生物でも観察されているが、その分子基盤には未解明の部分が多い。
本研究では、ヒトでは低温ストレス応答タンパク質として知られるCIRBPが、シロナガスクジラの細胞で特に高発現していることが示された。シロナガスクジラCIRBPの高発現により、DNA損傷後の非相同末端結合(NHEJ)や相同組換え(HR)といったDNA二本鎖切断修復機能が強化され、発がんにつながるゲノム異常を抑制していることが分かった。また、ヒトCIRBPおよびシロナガスクジラCIRBPをショウジョウバエに高発現させると寿命が延長した点も興味深い。
これまでピートのパラドックスの説明としては、発がん抑制遺伝子の機能強化(例:ゾウにおけるp53コピー数増加)などが知られていたが、今回の発見は「DNA修復そのものの強化」も発がん抑制と寿命延長に寄与し得ることを示唆している。
一方で、シロナガスクジラがどのようにCIRBPの高発現を維持しているのかは依然として不明である。それがクジラ特異的な進化の結果なのか、4℃前後の低水温環境への適応によるものなのかは今後の研究課題である。また、CIRBP高発現をヒトの発がん抑制メカニズムとして応用できるかどうかも、引き続き注目されるだろう。