2025115
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【SMC Science Alert】一部の系外惑星では、形成過程で岩石と水素から水が作られる可能性

これまで、水は宇宙空間で凝縮し、低温環境下で氷や雪として形成されると考えられてきた。しかし近年、この定説に疑問が呈されつつある。アリゾナ州立大学のHarlan Hornらの研究チームは、高圧環境下でパルスレーザーによって岩石試料を加熱し、惑星形成時に起こり得る反応を実験的に再現した。その結果、水素が岩石中のケイ酸塩溶融体と反応して酸素を放出し、その酸素が残存水素と結合して水分子が生成される過程が直接観察された。

著者らは、この反応が特に起こりやすい場所として、太陽系外惑星の「高圧・高温の核‐外殻境界」を挙げている。この境界部では、密度の高い岩石核が外側のガス成分と接しており、地球より質量の大きいスーパーアースやサブネプチューンでは、数十億年のスケールで水が生成され得る可能性があるとしている。

【掲載誌】Nature
【報道解禁(日本時間)】2025年10月30日 01:00
【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41586-025-09630-7
【DOI】10.1038/s41586-025-09630-7

玄田 英典, 東京科学大学 教授

近年、地球の5~10倍の質量を持つ系外惑星(スーパーアースやサブネプチューン)が数多く発見され、生命存在の可能性の観点から多くの研究者の注目を集めています。恒星の近くは高温のため、惑星を作る材料物質に液体・固体の水は存在できませんが、恒星から離れた低温の場所では、材料物質に水が入ります。そのため、恒星の比較的近くで発見されているこれらの系外惑星が水を持つ惑星なのかどうかは、重要な課題の一つです。これらの系外惑星が水を持つためには、最初、恒星から離れた場所で惑星が作られて、水を獲得した後、恒星に近い位置に移動してきたという可能性が主に考えられてきました。また、別の可能性として、恒星から近い場所でも、まとった分厚い「水素ガス」と「岩石」の反応による水の生成も考えられます。私も過去に、「岩石中の酸化鉄(FeO)」と「水素ガス」が反応すれば、大量の水が生成されると主張したこともあります。

今回の研究は、この「酸化鉄」が惑星形成初期には少なかった可能性を踏まえ、宇宙に存在する一般的なケイ酸塩鉱物であるケイ酸塩「オリビン((Mg, Fe)2SiO4)」を用い、これを極限環境(高温・高圧・大量の水素)で少量の「金属鉄」を混ぜて反応させるとケイ素(Si)から酸素(O)が取れ、水素と反応することで大量の「水」ができることを実験で示しました。※論文の式(1):(Mg, Fe)2SiO4 + 0.8Fe + 2.2H2 → FeSi + 1.8MgO + 2.2H2O

本研究に対する評価としては、この反応が実際に起きるのか、もう少し現実的な検討が必要だと思います。今回の式で大量の水を作るポイントは、少量の「金属鉄(0.8Fe)」である可能性があります。しかし「金属鉄」は惑星の中心にあり、これをなんとか地表(岩石層)に持ってこなければこの反応が起きない可能性があります。今後は、まず式(1)において「金属鉄」を減らしていっても大量の水ができるのか、次に、追実験を行なって結果が変わらないか、を確認する必要があります。

この分野の高温高圧実験は、世界でも東大の廣瀬敬教授、愛媛大学の入舩徹男名誉教授などに代表される日本の研究グループがリードしており、放射光施設などの整った環境に加え、日本人の手先の器用さが強みとなっています。高圧実験において、「いかに小さい試料を作れるか」、「その小さい試料を手でミクロンサイズの試料台に乗せられるか」が、超高圧力を上げる鍵となるからです。

生駒 大洋, アストロバイオロジーセンター センター長

本論文の新規性は主に二つある。

第一に、惑星形成期に想定される高温高圧条件下で、溶融した岩石と水素の反応によって水が生成されることを実験で実際に示した点である。これは、20年前の我々の予測的提案(Ikoma & Genda, 2006)に端を発する議論である。当時は太陽系では痕跡が見られなかったため大きな注目を集めなかったが、現在ではスーパーアースやサブネプチューンの発見数が増え、この現象の重要性が再認識されている。

第二に、従来は岩石に含まれる酸化鉄の酸素が大気中の水素と反応して水を生むと考えられていた。しかし本研究では、サブネプチューン内部で想定される高温高圧環境では、岩石中のSi–O–Si構造に含まれる酸素を利用して水が生成されることが示され、可能性が大きく広がった。これは中心星の近くにある高温の系外惑星でも、大気中に水が豊富に存在し得ることを示唆している。

サブネプチューンが地球のように生命を宿せるハビタブル惑星となるかどうかは議論の余地がある。しかし、惑星内部で水が生成され得ることは、太陽系外のハビタブル惑星の存在確率に大きな影響を与える可能性がある。太陽系では、リュウグウのような含水隕石が地球に水をもたらしたとされるが、こうした輸送プロセスを経なくとも、惑星自体で水が生成できるなら、水の獲得は宇宙でより一般的な現象である可能性が高い。ただし両者は排他的ではなく、共存するシナリオも十分考えられる。

今後の課題は、実験・観測・理論を融合して理解を深めることである。本研究はダイヤモンド・アンビルセルを用いた室内実験だが、惑星スケールでの理論的検討も不可欠である。特に、コア‐外殻境界で生成された水がどのように上部大気へ輸送されるかを詳細に調べる必要がある。観測面では、JWSTや次世代望遠鏡(Arielなど)により大きな進展が期待される。

黒澤 耕介, 神戸大学 准教授

近年の研究では、サブネプチューン内部の溶融シリケイト層と大気中の水素が反応してSiH4が発生することが示唆されていた。この際に水(H2O)も生成されることが理論的に示されていたものの、高圧条件でも理想気体を仮定した結果、生成量はごくわずかと見積もられていた。

今回の論文は、実験的手法によりサブネプチューン内部条件を模し、理論の約3,000倍もの水が生成されることを示した点で画期的である。レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル内部で熱対流を起こし、水素が常に試料と接触するよう工夫することで、固体と気体の反応面を確保している点が特に優れている。

一方、論文中で気になるポイントとして、反応速度論の議論がない点と、反応系中で炭素や硫黄の存在が述べられていない点が挙げられます。 炭素や硫黄は水素と同様にO、Si、Feと化学結合を作るため、水素と競合することが予想されます。 後者については例えば地球の形成期において、金属核が形成した後にマントル中でFeSが析出して親鉄性元素を取り込み核へ落下するという説がここ10年ほどで有力視されています。FeSが析出することによりSiが反応できなくなったり、あるいはここに炭素が絡んでくるとCOやCO2が形成されるというシナリオも考えられると思います

また、系外惑星がSiを多く含む場合には本プロセスにより大量の水が生成される一方、Mgが多い場合には反応効率が低く、惑星内部組成が生成水量の多様性をもたらす点も興味深い。

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