20251210
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【Science Alert】ビデオ通話の不具合により社会的弱者がより不都合を被る可能性

ビデオ通話の不具合により社会的弱者がより不都合を被る可能性

ビデオ通話の通信不良が、重要な対人判断に深刻な悪影響を及ぼすとの研究報告がなされた。画面のフリーズや音声の遅延といった一般的なグリッチが、対面に近い感覚を破壊し、相手への信頼や評価を低下させるという。模擬的なオンライン面接では、グリッチが発生すると候補者が採用・推薦される可能性が下がり、オンライン診療においては医療者への信頼が77%から61%に低下した。実際のオンライン裁判でも、問題のない通話で仮釈放が認められた割合が60%であったのに対し、通信不良がある場合は48%に下がっていた。著者らは、このような通信障害は映像や音声の不気味さを生み、対人判断を歪めると主張する。さらに、インターネット環境が不十分な弱者層ほど影響を受けやすく、オンライン化が不平等を拡大する可能性もあると指摘する。

【掲載誌】Nature
【掲載日】2025年12月4日
【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41586-025-09823-0
【DOI】10.1038/s41586-025-09823-0

髙木 幸子 常磐大学 人間科学部 コミュニケーション学科 教授

本研究は、オンライン面接や医療相談、司法手続きなど、私たちが対人評価を行う重要な文脈において、映像同期型の遠隔コミュニケーションで生じるごく軽微な通信の乱れ(グリッチ)が深刻な影響を及ぼし得ることを、複数の実験と実データを通じて精緻に示した点で大変意義深いといえます。とくに、評価の低下が声の聞き取りにくさや単なる中断に起因するのではなく、グリッチが“相手と対面しているような感覚”の崩壊を引き起こし、それに伴う「不気味さ」によって生じるという点は、対人コミュニケーション研究に新たな視座を与えるものです。目の前の相手がグリッチによって急に機械的・非人間的に見えてしまうという現象が「不気味さ」を誘発し、信頼や印象評価の低下に結びつくという指摘は、オンラインコミュニケーションに特有の非言語的違和感がもたらす影響に関する近年の知見とも合致しています。

また、社会経済的に不利な層ほど通信環境の不安定さを抱えやすいことが知られており、コミュニケーションのオンライン化が公平性を高めるどころか、評価や選抜といった重要な場面で新たな格差を生む可能性を孕んでいるという指摘は、看過できない点です。本人の能力とは無関係な技術的要因によって評価や判断が左右されるのであれば、その影響を理解したうえで運用面での工夫を検討する必要があるかもしれません。面接者や医療従事者にこうした可能性を周知し、トレーニングの開発やプラットフォーム側の設計改善を検討するなど、オンラインコミュニケーションにおける評価の公平性を担保するための議論が今後ますます求められると考えられます。

Prof. Dr. Johannes Basch, Professor für Wirtschaftspsychologie, Sales and Sustainable Business Institute, Hochschule Neu-Ulm

—方法論の評価

本研究では、主に実験的デザインが用いられ、技術的トラブル(グリッチ)が意図的に操作されています。これにより、因果関係の検証が基本的に可能になります。特に説得力があるのは、研究チームがさまざまな文脈、異なる種類のトラブル、そして複数の従属変数(信頼、採用の可能性など)を考慮している点です。制限としては、不快感(Uncanniness)が、評価を行う人とは別の人物によって測定されている場合があることです。これは、因果的効果の直接的な解釈を難しくします(例:研究4のWave 2・Wave 3)。とはいえ、総じて実験構成は堅牢で、信頼できる結論を導くのに十分です。

—不快感が評価低下につながる理由

結果はもっともであり、デジタルコミュニケーション研究や私自身の採用選考に関する経験・研究とも一致します。ビデオ会議のグリッチは、目の前に実際の人がいるかのような“存在感”の錯覚を弱め、社会的プレゼンスの認知を損なうのです。デジタル面接に関する研究では、社会的プレゼンスの制限によって候補者の評価に差が生じることが示されています。また、こうした制限は、応募者本人のパフォーマンスだけでなく、面接官の評価にも影響を及ぼします。進化心理学の観点からは、デジタルなやり取りは私たちの“社会的なつながりや信頼への欲求”を満たしにくいとされます。画面越しの人物が本当に“実在の人間”なのか無意識に確信を持てないためです。

—現実の面接場面への応用可能性

これらの結論は、現実の採用面接にも十分適用可能です。実際、ビデオ面接では技術的トラブルが起きると応募者に不利になる可能性があります。面接官が『評価に影響させないように』と事前に言われていても同様です。さらに研究によれば、ビデオ面接の応募者は対面面接よりも低く評価される傾向があり、それは社会的プレゼンスの低さで部分的に説明できます。したがって、応募者間の公平性を確保するため、面接の“実施媒体(対面/オンライン)”は統一すべきです。移動距離が長い応募者だけビデオ面接にする、といった“親切のつもりの対応”は避けるべきです。ただし、インターネット環境・カメラ・設定など、技術要件をどこまで統一し得るかは、この研究でも他の研究でも答えは出ていません。完全に対面に戻るのは、オンライン面接の多くの利点(環境負荷の低減など)を考えると現実的ではありません。ただし、AI利用による応募者の“見せ方の操作”の問題が増える中、対面面接への回帰が議論される可能性はあります。

—低評価の他の可能な原因

著者らは、単なる情報欠損など、もっともあり得る代替説明の一部を適切に排除しています。しかし、他の要因も考えられます。たとえば、ビデオ会議のグリッチは作業記憶への認知負荷を増加させます。内容理解が難しくなり、技術トラブルへの注意も必要となるため、結果として判断が浅くなる可能性があります。また進化心理学的には、デジタルコミュニケーションは“距離の近さ”や“信頼形成”といった基本的欲求を満たしにくいともされます。

—ビデオ会議への高い期待

興味深い点として、ビデオ会議は“対面と同等のコミュニケーションができるはずだ”という高い期待を抱かせることです。見えて聞こえるのだから、対面と同じはずだ、と。これはコミュニケーション心理学的には大きな期待値であり、その分、トラブルが起こると強い違和感が生じます。一方、電話ではこの期待値はもっと低い。非言語情報が欠け、回線の乱れや相手の発話タイミングが読みづらいなど、形式上の制限が共通認識になっているからです。この“期待の違い”は、管理職への質的インタビュー(Extended Data Table 1)でも示されています。

Prof. Dr. Lisa Handke, Juniorprofessorin für Wirtschaftspsychologie, Fachbereich Wirtschafts- und Sozialwissenschaften, Friedrich-Alexander-Universität Erlangen-Nürnberg

—研究方法について

著者らは合計6つの研究を通じて、ビデオ会議におけるグリッチがさまざまな結果に与える影響を調べています。アウトカムには、好意度、信頼、採用意図、仮釈放判断などが含まれます。研究はテレメディシン、金融相談、司法など異なる文脈を対象とし、相関研究と実験的デザインを併用し、少なくとも研究6では実際の“リアルワールド”のフィールドデータも使用しています。グリッチと不快感(Uncanniness)の因果関係を導けるのは、研究3・4・5のみであり、これらではグリッチを実験的に操作し、その影響を直接測定しています。実験設計は適切で、段階的に知見を積み上げています。具体的には、音声・映像の短い/長い途切れなど10種類のサブタイプを操作し、またフェイス・トゥ・フェイス会話と画面共有状態など異なる条件での影響も調べています。

—不快感が評価低下につながる理由

今回の研究結果は複数の研究領域にわたり説得力があります。Uncanniness(不気味さ)は古くから研究されておりロボット研究に起源を持ちます。“人間に似すぎたロボットは逆に不気味に感じられる”という『不気味の谷(Uncanny Valley)』仮説として知られ、心理学的には“非人間化(Dehumanization)”によって説明されることが多いです。ロボットが一見人間的に見えても、動作や属性が突然“非人間的”に見えると不気味さが生じます。本論文に当てはめれば、グリッチが瞬間的に“人間らしさ”を損ない、それが不気味さを引き起こすと考えられます。

—現実の場面への適用可能性

結果は、“知らない人同士の対話”に関しては十分に一般化できると感じます。応募者と面接官が初対面である一次面接などが典型です。研究間で一貫した傾向が見られることも、外的妥当性を示唆します。一方で、今回の研究は“既に親しい関係にある人物同士”の対話を扱っていません。研究6についても、長期的な交流歴があるとは言えません。非人間化は“距離のある相手”ほど起こりやすく、知り合い同士の場合にはこの効果は弱まるか、消える可能性もあります。そのため、結論がすべてのビデオ会議に適用できるかは、まだ明らかではありません。

—他に考えられる評価低下の要因

著者らは、単なる情報の欠落や、参加者の性格特性への帰属(能力・人柄などの推測)といった代替説明を排除したと述べています。しかし、公開されている追加資料を見る限り、これらの説明を完全に排除するのは難しいように思われます。実際、最も採用意図が低かったグリッチのサブタイプは、“不気味さ”よりも情報欠落や繰り返しの中断のほうが強く関連しているように見受けられます。また追加分析では、『技術的トラブルが応募者側ではなく“自分(評価者)側の接続の問題だ”と認識した場合、応募者をより高く評価する傾向』も示唆されています。これは主研究では扱われていません。

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