2026119
各専門家のコメントは、その時点の情報に基づいています。
SMCで扱うトピックには、科学的な論争が継続中の問題も含まれます。
新規データの発表や議論の推移によって、専門家の意見が変化することもありえます。
記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

Science Media Centre of Japan:Expert Reaction -専門家コメント-】モロッコで発見されたヒト族化石、現生人類の出現を解明する鍵に

モロッコで発見されたヒト族化石、現生人類の出現を解明する鍵に

マックス・プランク研究所らの研究チームは、モロッコのカサブランカ近郊で発見された約77万3,000年前のヒト族(ホミニン)の化石を解析し、この化石がホモ・サピエンス系統の近縁祖先である可能性が高いことを明らかにした。下顎骨や歯、椎骨からなる化石は、ホモ・エレクトスなどに見られる原始的形質と、初期ホモ・サピエンスやネアンデルタール人に共通する派生形質をあわせ持っていた。年代については、地磁気逆転期の記録を利用して推定され、同時代のホモ・アンテセッサーと一致していた。ただし、ホミニンとホモ・アンテセッサーの形態学的差異は、前期更新世後期におけるヨーロッパと北アフリカの地域分化を示唆しするものだった。研究者は、本研究が、現生人類の起源がユーラシアではなくアフリカにあることを支持する重要な古人類学的証拠を提供する、と述べている。

【掲載誌】Nature
【掲載日】1月7日
【論文リンク】https://nlcontent.springernature.com/redirect/TIDP4635633XFBABD077803C4148BA800E06064B9A1FYI4/29B9DC50-405B-4EA7-88BC-D45470D43596

森田 航 東京大学大学院理学系研究科 准教授

1.形態学的解釈および系統的位置づけの妥当性

本論文で扱われた化石は、原始的形質とホモ・サピエンスに派生的な形質がモザイク状に認められ、サピエンス・ネアンデルタール・デニソワの共通祖先候補として一定の妥当性をもつ。とくに系統的情報を反映しやすい歯の形態に注目すると、ほぼ同時代のイベリア半島出土化石(アンテセッサー)がネアンデルタール的派生形質を示すのに対し、トーマス採石場出土化石にはそのような特徴が認められない点は重要である。歯の形態解析には3Dジオメトリック・モルフォメトリクスや非計測的形質分析など、標準的かつ妥当な手法が用いられている。

2.「現生人類系統」への結びつけの強度と留保点

年代的には、遺伝学的に想定される三者共通祖先の生存時期と整合的であり、観察される形質もその想定像と大きく矛盾しない。ただし、デニソワ人の形態的特徴はいまだ不明点が多く、共通祖先の具体像は確定していない。著者らはマグレブ地域の重要性を強調するが、ユーラシアへの広範な拡散を踏まえると、他のアフリカ地域や中東起源の可能性も否定できない。石器文化など文化資料の比較検討も今後重要となる。

3.今後検討すべき課題

中期~後期更新世のホモ属多様性が古代DNA研究により明らかになりつつある現在、ホモ族の起源にあたる前期更新世の人類化石サイトにおける発掘調査の重要性は高い。本研究が示すレベルの高精度年代測定、形態解析だけでなく、文化遺物分析を組み合わせた研究が、最終的な種分化過程の解明に寄与すると考えられる。

諏訪 元 東京大学特別教授・東京大学総合研究博物館 特任教授

ー本論文における形態学的解釈および系統的位置づけの妥当性

専門的には、大方妥当な解析結果と解釈だと見受けられますが、サピエンスもしくはユーラシア古代集団と共有する進歩的特徴の所見が多くみられ、これらの妥当性については判断が難しいのが実際です。その理由は、そもそも対象となっているThI-GH化石も、比較している既存化石も少な過ぎるからです。その結果、形態解釈の一部もしくは多くについて過解釈に陥っている可能性があります(単なる個体変異を系統シグナルと混同)。論文そのものは慎重な表現となっていますが、他者による誇大解釈に既に繋がっているようにも見受けられます。また、サハラ以南のアフリカでも共通祖先もしくはその周辺に相当するおおよそ同時代の化石は存在するので、サピエンスの系統がアフリカで生じたとの考えは従来から主流と言えます。

ー当該化石群を「現生人類系統」に結びつける議論の強度と留保点

著者らの論文の中の専門的記述では、ThI-GH化石は「現生人類系統」の理解に関わる重要な化石と言及するに止めており、サピエンス系統の古い化石か、それとも分岐前の祖先集団の化石と見なすかについては、著者らは曖昧のままにしているように感じます。ただ、複雑な集団構造を持つアフリカの祖先系統全体の中からユーラシアの旧人段階の系統が生じたことが想定されるので、断片的かつ小数の化石から大きな理解の進展に至るのは一般には難しく、化石記録の着実な蓄積を待つしかないと思います。

ー今後の研究において検討すべき課題や視点

78万年前ごろの精緻な年代特定が、本研究の大きな「売り」となっています。精力的な古地磁気調査に基づく著者らの主張の通り、MB古地磁気境界(チバニアンの下限)を検出した可能性は十分あると思われます。ですが、その一方で、懸念が全くないわけではありません。ThI-GHの堆積層は、海進期に古い段丘層に削り込まれた海蝕洞に堆積したもので、著者らによると、下位数メートルの堆積層が逆磁極を示し、その上に続く1m程度の層がMB境界をまたぐ5000年程度の期間に相当するとされています。一方、もし逆磁極期の下層を含む全体が5000年程度の間に堆積したならば、MB古地磁気境界周辺ではなく、70万年前ごろより若い短期イベントが検出された可能性もあり得ます。以上から、ThI-GH化石の年代を78万年前と確定するためには、さらなる検討が必要かもしれません。

記事のご利用にあたって

マスメディア、ウェブを問わず、科学の問題を社会で議論するために継続して
メディアを利用して活動されているジャーナリストの方、本情報をぜひご利用下さい。
「サイエンス・アラート」「ホット・トピック」のコンセプトに関してはコチラをご覧下さい。

記事の更新や各種SMCからのお知らせをメール配信しています。

サイエンス・メディア・センターでは、このような情報をメールで直接お送りいたします。ご希望の方は、下記リンクからご登録ください。(登録は手動のため、反映に時間がかかります。また、上記下線条件に鑑み、広義の「ジャーナリスト」と考えられない方は、登録をお断りすることもありますが御了承下さい。ただし、今回の緊急時に際しては、このようにサイトでも全ての情報を公開していきます)【メディア関係者データベースへの登録】 http://smc-japan.org/?page_id=588

記事について

○ 私的/商業利用を問わず、記事の引用(二次利用)は自由です。ただし「ジャーナリストが社会に論を問うための情報ソース」であることを尊重してください(アフィリエイト目的の、記事丸ごとの転載などはお控え下さい)。

○ 二次利用の際にクレジットを入れて頂ける場合(任意)は、下記のいずれかの形式でお願いします:
・一般社団法人サイエンス・メディア・センター ・(社)サイエンス・メディア・センター
・(社)SMC  ・SMC-Japan.org

○ この情報は適宜訂正・更新を行います。ウェブで情報を掲載・利用する場合は、読者が最新情報を確認できるようにリンクをお願いします。

お問い合わせ先

○この記事についての問い合わせは「御意見・お問い合わせ」のフォーム、あるいは下記連絡先からお寄せ下さい:
一般社団法人 サイエンス・メディア・センター(日本) Tel/Fax: 03-3202-2514

専門家によるこの記事へのコメント

この記事に関するコメントの募集は現在行っておりません。