【Expert Reaction -専門家コメント-】女性著者による生物医学・生命科学分野論文の査読期間は比較的長期間に及ぶ
女性著者による生物医学・生命科学分野論文の査読期間は比較的長期間に及ぶ
学術界、とくに生物医学・生命科学分野における査読期間の男女差を大規模データで検証した。PubMedに収録された約3650万本の論文を分析した結果、女性が著者の論文は、男性著者の論文に比べて投稿から受理までの査読期間が中央値で7.4~14.6%長いことが示された。この差は分野や雑誌特性などを統制しても有意であり、多くの分野で一貫して観察された。一方、一部の分野では差が見られない、あるいは逆転する場合もあった。また、低所得国に所属する著者も査読期間が長くなる傾向が確認された。これらの結果は、女性研究者の出版率やキャリア上の不利を生み出す要因の一端を示すものであるとのこと。
【掲載誌】PLOS Biology
【報道解禁(日本時間)】2026年1月21日 4時
【論文リンク】https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3003574
【DOI】10.1371/journal.pbio.3003574
井出和希、大阪大学感染症総合教育研究拠点/ELSIセンター 特任准教授
Alvarez-Ponce博士らは、学術論文の査読期間(投稿から受理されるまでの期間)に関して、PubMedデータベースに含まれる3600万件超の要旨およびメタデータを活用することでジェンダーギャップが存在することを示唆しました。結果として、影響を及ぼす可能性がある変数を統計学的に調整した後も著者が女性と推定される論文の査読期間が長いとしているものの、解釈には留意を要します。
まず、これだけ大きなデータセットを利用した場合、統計学的な差は検出されやすいことを認識しておく必要があります。その上で、本論文の要旨にある7.4%から14.6%という差が、実際にどのような意味をもつのかを考えてみましょう。上限値として示されている「14.6%」という値は、インパクトがあるでしょうか?実際の査読期間の分布をみると、中央値は概ね100日といったところで、男女間で最大15日程度異なると理解できます。この差がどのような意味を持つのかは、意見が分かれるところでしょう。
出版年や論文の長さ、読みやすさのスコア等でフィルタリングをした後に60万件をランダムサンプリングして調整をしても、統計学的に性別の関連が認められたことは事実です。しかしながら、著者も限界で触れているように、査読がどのような様式で行われたか(例えば、二重遮蔽(ダブルブラインド)の場合、著者と査読者は互いの名前を知らない状態で審査を行います)は考慮されておらず、査読期間には著者が修正に要した時間も含まれています。貴重な知見ではあるものの、それらを差し引いて結果を読む必要があると考えます。
佐藤翔、同志社大学図書館司書課程教授
学術・研究の世界に様々なジェンダーによる格差が存在し、女性は不利な立場に置かれています。本論文ではその中でも学術雑誌における査読(投稿論文を他の研究者が審査し、掲載可否を判断する仕組み)プロセスに着目し、生物・医学・生命科学分野において、女性の著者による論文は、男性著者による論文よりも査読により長い時間がかかっていることを、3650万本以上という膨大な論文データの検証から明らかにしたものです。
分析においては著者の役割、出版年、論文の長さ、テキストの内容、掲載雑誌、分野、著者の所属する国など、あらゆる他の要因を考慮したとしても、女性著者の論文の査読にはより長い時間がかかっていると示されました。この理由としては編集者や査読者が女性研究者に対して偏見を抱いている(そのため批判的になり、査読により時間がかかっている)可能性に加え、査読者ではなく著者が修正に時間をかけている、つまり女性研究者は家事・育児負担により作業時間が少ない、あるいは男性より論文完成度を上げようとするなんらかの要因があって、修正に時間をかけている可能性も指摘されています。
前者の場合(査読における偏見)は、著者名を査読者に伏せて審査するダブル・ブラインド制度の導入等で抑制されることが期待されますが、後者の場合は解決不可能です。ただし、論文中では生物物理学など、いくつかの領域では性別による査読期間の長さが逆転している例も確認されており、査読期間のジェンダー格差解消が不可能ではないことも示唆されています。
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生物医学・生命科学分野で、女性が著者の論文は男性が著者の論文より査読期間が長くなる、という論文です。同じ論文でも著者の国や地域によって論文の採択率が異なることはよく知られていましたが、性差の存在も示唆されたという興味深い結果です。データソースはPubMed、性別はgenderize.ioという名前のデータベースから推定しています。論文の質の指標としてアブストラクトのreadabilityをいくつかの指標で算出しています。
著者の国の一人当たりGDPやreadabilityの指標を調整しても、第一著者、責任著者いずれも女性のほうが男性より査読期間が長いという結果でした。PubMedに掲載された論文はあくまでアクセプトされたものだけですが、リジェクトされた論文での性差にも興味がわくところです。
論文の質については、女性著者の論文のほうが男性著者の論文より引用数が多いという先行研究があります。今回の論文ではreadabilityだけを考慮されていますが、引用数で調整するとより性差が大きくなる可能性もあります。今後同様の研究が進んで性差解消につながることを期待します。