2026129
各専門家のコメントは、その時点の情報に基づいています。
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【英国SMC Expert Reaction -専門家コメント-】インドでのニパウイルス感染者の発生について

【専門家コメント】

Dr Kaja Abbas, Associate Professor of Infectious Disease Epidemiology and Dynamics at the London School of Hygiene & Tropical Medicine and Nagasaki University:

ーニパウイルスとは

ニパウイルスは、1999 年に初めて同定された人獣共通感染症の RNA ウイルスで、人に重篤な呼吸器症状や神経症状を引き起こします。発熱や頭痛から始まり、急性脳炎へと進行することもあります。2001 年以降、特にバングラデシュやインドで散発的ながら繰り返し流行が起きています。
果実食コウモリなどの動物から人への動物由来感染に加え、人から人への感染、また汚染された果実製品(ナツメヤシの樹液など)を介した人への感染も報告されています。

ー現在の流行状況

インド保健省は、2025 年 12 月以降、西ベンガル州で医療従事者 2 人の感染を確認しました。追跡された接触者はいずれもニパ感染陰性でした。

ー流行抑止のための対策

国際的な拡大を防ぐため、タイやネパールでは空路・陸路の入国地点でインドからの渡航者のスクリーニングを開始しています。またカザフスタンなどは、到着後 14 日間の健康観察を求める指針を保健当局から出しています。一般的な予防策としては、手指衛生、十分な換気、人混みや体調不良者との接触回避、体調不良時の自宅待機、早期の医療相談、免疫を支える健康的な生活習慣が重要です。

ー今回の流行に似た前例は?

2001 年以降、特にバングラデシュやインドで散発的だが繰り返し流行が起きています。果実食コウモリなどからの動物由来感染に加え、人 人感染や汚染食品を介した感染も見られます。

ー一般市民へのリスク

ニパウイルスの基本再生産数(R0)は通常 1 未満で、人 人感染は限定的です。そのため、広範なパンデミックに発展する可能性は低いと考えられます。


Dr Efstathios Giotis, Lecturer in Molecular Virology at University of Essex:

ーニパウイルスとは

ニパウイルスは比較的まれな人獣共通感染症で、主に果実食コウモリを起源とします。時にブタや人に感染し、直接接触または汚染された食品を介して人に伝播します。特定の状況では、特に医療現場での密接な接触を通じて人から人へ感染することもあります。感染は重篤化することがあり、肺や脳に影響を及ぼします。現在、承認されたワクチンや特異的治療法はありません。

ー現在の流行状況

西ベンガル州では、バラサットの私立病院での調査を受け、保健当局が 2 例のニパ感染を確認しました。当初はより多い症例数が示唆されましたが、追加検査により 2 例の一次感染に絞り込まれました。疑い例の中には医療従事者が含まれており、院内関連感染の可能性が懸念されましたが、現時点で地域社会への広範な拡大を示す証拠はありません。

ー封じ込め対策

患者は専門の感染症施設に隔離され、病院では厳格な感染対策が強化されています。約200 人の濃厚接触者が特定され経過観察中で、州全体での監視体制も拡充され、迅速な新規症例の検出が図られています。

ー今回の流行に似た前例は?

今回の事象は、ニパウイルスの文脈では特段異例ではありません。インドでは過去にも、西ベンガル州やケララ州を含め、小規模な流行が報告されています。これまで同様、症例数は限定的で、公衆衛生対応は迅速かつ的を絞ったものです。

ー一般市民へのリスク

一般集団におけるリスクは低いと考えられます。ニパウイルスは容易には拡散せず、通常は感染者との近接・長時間の接触、あるいは特定の動物関連経路が必要です。警戒は必要ですが、現段階で広範な公衆衛生上の脅威を示す証拠はありません。


Prof Paul Hunter, Professor in Medicine, University of East Anglia (UEA):

ニパウイルス感染症はまれですが、致死的になり得る重篤な感染症です。報告されている致死率は事例により幅があり、9%から 90%とされています。ただし、感染の最大半数は無症状である可能性があり、感染あたりの致死率は報告値より低い可能性があります。潜伏期間は通常 1〜2 週間ですが、より長い場合もあります。

感染は通常、動物から人へ、直接接触または汚染食品の摂取によって起こります。主な感染源はコウモリで、感染した果実食コウモリの尿や唾液で汚染された果物や果実製品(例:生のナツメヤシ樹液)の摂取による感染が知られています。最初の流行は感染したブタとの接触に関連しており、ブタはコウモリから感染した可能性が高いと考えられます。人から人への感染は起こり得ますが一般的ではありません。ただし、医療従事者への感染は特に懸念されます。

1998〜1999 年にマレーシアで初めて確認されて以降、東南アジアではほぼ毎年のように流行が見られ、多くはバングラデシュから報告されています。西ベンガル州での流行も今回が初めてではありません。

今回の流行に関連する症例数は明確ではありませんが、最近の報告では医療従事者の 2 例のみが確認されています。未診断の感染者から感染した可能性が推測されますが、確証はありません。

ニパは非常に深刻な感染症ですが、人から人への感染力が低く、R0 は 1 未満であるため、世界的な拡大リスクは低いと考えられます。ただし、ウイルスの変異により感染性が高まる可能性や、潜伏期間が長く国境での検出が難しい点を踏まえ、油断は禁物です。

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