2026129
各専門家のコメントは、その時点の情報に基づいています。
SMCで扱うトピックには、科学的な論争が継続中の問題も含まれます。
新規データの発表や議論の推移によって、専門家の意見が変化することもありえます。
記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

【Expert Reaction -専門家コメント-】 暗黒物質の超高解像度マップ完成、過去100億年の銀河成長も解明

暗黒物質の超高解像度マップ完成、過去100億年の銀河成長も解明

国際研究チームは宇宙の質量(mass)の超高解像度マップを作成し、宇宙の質量の約85%を占める「ダークマター(暗黒物質)」が過去100億年の間に銀河をどのように成長させてきたのかを明らかにしたと報告した。ダークマターは光を放出も吸収もしないため、通常の望遠鏡では見えない。そこで研究チームは、ダークマターの重力が遠方の銀河から届く「光の行路(path of light)」に与える影響を記録。その微小な歪みを測定することで、ダークマターがどこ存在するのかを正確にプロットすることに成功したという。研究者らは、新たなマップは従来のものより解像度が2倍高く、巨大な銀河団や「ダークマターブリッジ(ガスや銀河を分散させ宇宙の「骨格」を形成する構造)」も網羅していると述べている。

論文リンク:https://www.nature.com/articles/s41550-025-02763-9

掲載誌:Nature Astronomy

掲載日時:1月27日01h00


【専門家コメント】

吉田直紀 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 特任教授:

ー本論文に対する評価・ご意見(方法論や主張の妥当性など)

ジェームスウェッブ宇宙望遠鏡を用いた重力レンズ現象の観測により、これまでにないくらいの精度で宇宙の中の質量分布マップを明らかにした画期的論文. これまでハッブル宇宙望遠鏡やや地上大型望遠鏡では困難であったダークマターの分布の詳細や,フィラメント構造を直接可視化することができた. データ分析の手法として様々な最先端のモデルや統計学を組み合わせて,観測ノイズを抑えており,現時点で可能な宇宙の探査手法として非常に完成度が高い。 一方で、本研究は比較的狭い天域を対象としているため、今後より広い範囲の観測が不可欠である。 

ー本内容に関連する日本国内の状況

日本国内においても、ダークマター分布の研究は、すばる望遠鏡を用いた観測により世界的に重要な役割を果たしている。特に、すばるHyper Suprime-Camサーベイは、 天空の数千平方度に及ぶ広大な天域を対象とした重力レンズ観測を実施しており、空間分解能ではジェームスウェッブ宇宙望遠鏡に及ばないものの、宇宙の進化を司る 「宇宙論パラメータ」の測定や大規模構造の統計的性質を理解するために重要と考えられている.

ーその他のお考え、ご意見など

ジェームスウェッブ宇宙望遠鏡を用いることでより遠くの宇宙,すなわち宇宙が若かった頃の様子もわかるようになり,今後は宇宙進化の歴史の全貌が明らかに なっていくと期待できる.


大栗 真宗 千葉大学先進科学センター 教授:

ダークマター分布は直接観測できないため、その重力的な効果を通して分布を推定する必要があります。弱い重力レンズ効果は銀河の形状の歪みからダークマター質量分布地図を得る手法ですが、その解像度は基本的に形状を測定する銀河の数密度で決まります。今回の研究では、高感度のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを用いることで従来の約2倍の数密度の銀河の形状が観測できたことで、これまでで最も高解像度のダークマター地図が得られました。これまで実績のある手法を新しいデータに適用したもので、系統誤差の評価も慎重に行われており結果の妥当性は高いと言えます。

但し、今回の研究では高解像度ダークマター地図の作成に焦点が置かれており、その応用については論文ではあまり議論されていません。X線や銀河分布と対応していないダークマター構造の詳しい物理的性質や、銀河分布とダークマター地図の詳しい比較による銀河の形成進化の過程でのダークマターの役割の解明など、今回の研究成果をもとに多くの重要な研究の展開が期待されますが、これらの応用的な研究成果は今後の論文において発表されていくものと考えられます。

ダークマター質量分布地図の作成については日本のすばる望遠鏡がこれまで世界をリードする研究成果を挙げてきましたが、すばる望遠鏡は広視野、高集光力を生かした広い天域のダークマター地図の作成に威力を発揮してきました。今回のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いた研究は、狭い天域に着目してその領域で非常に高解像度のダークマター地図を作成する研究であり、すばる望遠鏡を用いた研究と相補的であると言えます。

記事のご利用にあたって

マスメディア、ウェブを問わず、科学の問題を社会で議論するために継続して
メディアを利用して活動されているジャーナリストの方、本情報をぜひご利用下さい。
「サイエンス・アラート」「ホット・トピック」のコンセプトに関してはコチラをご覧下さい。

記事の更新や各種SMCからのお知らせをメール配信しています。

サイエンス・メディア・センターでは、このような情報をメールで直接お送りいたします。ご希望の方は、下記リンクからご登録ください。(登録は手動のため、反映に時間がかかります。また、上記下線条件に鑑み、広義の「ジャーナリスト」と考えられない方は、登録をお断りすることもありますが御了承下さい。ただし、今回の緊急時に際しては、このようにサイトでも全ての情報を公開していきます)【メディア関係者データベースへの登録】 http://smc-japan.org/?page_id=588

記事について

○ 私的/商業利用を問わず、記事の引用(二次利用)は自由です。ただし「ジャーナリストが社会に論を問うための情報ソース」であることを尊重してください(アフィリエイト目的の、記事丸ごとの転載などはお控え下さい)。

○ 二次利用の際にクレジットを入れて頂ける場合(任意)は、下記のいずれかの形式でお願いします:
・一般社団法人サイエンス・メディア・センター ・(社)サイエンス・メディア・センター
・(社)SMC  ・SMC-Japan.org

○ この情報は適宜訂正・更新を行います。ウェブで情報を掲載・利用する場合は、読者が最新情報を確認できるようにリンクをお願いします。

お問い合わせ先

○この記事についての問い合わせは「御意見・お問い合わせ」のフォーム、あるいは下記連絡先からお寄せ下さい:
一般社団法人 サイエンス・メディア・センター(日本) Tel/Fax: 03-3202-2514

専門家によるこの記事へのコメント

この記事に関するコメントの募集は現在行っておりません。