2026年2月16日

【Expert Reaction-専門家コメント-】運動後にみられる脳のニューロン活性が持久力を高める可能性

各専門家のコメントは、その時点の情報に基づいています。SMCで扱うトピックには、科学的な論争が継続中の問題も含まれます。新規データの発表や議論の推移によって、専門家の意見が変化することもありえます。記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

運動後にみられる脳のニューロン活性が持久力を高める可能性

ペンシルバニア大学の研究者らは、マウスを用いた研究により、運動による持久力向上が筋肉だけでなく脳の変化にも依存すると報告した。マウスがトレッドミル運動を行うと、エネルギー代謝を調節する腹内側視床下部(VMH)のSF1ニューロンが活性化し、その活動は運動後も少なくとも1時間持続した。

2週間の継続的な運動後は、これらのニューロン活性はさらに高まり、マウスの走行速度と持続時間も向上した。一方、SF1ニューロンの活動を運動中または運動後に遮断すると持久力の向上は見られず、特に運動後の神経活動が重要であることが示された。

研究者らは、運動後の脳活動が、体内のグルコース利用を高め、回復を促進し、筋肉や心肺機能の発達を促す可能性がある、としている。これらの成果は、運動効果を高める新たな介入法の開発や、高齢者・リハビリ患者の運動支援につながる可能性を示している。

論文リンク: https://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273%2825%2900989-4?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0896627325009894%3Fshowall%3Dtrue

掲載誌:Neuron

掲載日:2月12日


【専門家コメント】

志内 哲也 四国大学 生活科学部 健康栄養学科 教授:

視床下部のVMH(視床下部腹内側核)はこれまで満腹中枢として知られていた部位であり、かつ、脂肪細胞から分泌されるレプチンが作用することで交感神経を介して末梢組織の糖・脂肪酸代謝を活発にする代謝調節中枢である。本研究では運動トレーニングにより、VMHにおいて体重や熱産生を調節するSF-1ニューロンへの持続的な興奮性入力が増加することで、神経細胞膜電位が上昇し、VMHからのエネルギー代謝調節経路が常時活性化しやすい状態になる可能性が示されている。運動療法現場においてこの結果を取り入れた説明がなされれば、説得力の高い運動トレーニング啓発へのアプローチにもつながるだろう。

今後は、今回ターゲットとなったVMH SF-1ニューロンが運動トレーニングのどのような刺激により活性化するのか、エネルギー代謝の適応が交感神経系を介するのか、骨格筋における筋線維組成や遺伝子発現の変化は伴わないのか、また、SF-1ニューロン以外のVMHニューロンは関与しないのかなど、様々な追加検証をする必要があると考えられる。

とりわけ、運動中よりも運動直後のSF-1ニューロンの活性化がクリティカルである結果は、大変重要で、かつ、興味深い点である。運動による脳への影響は、近年注目されている研究領域であり、この研究をきっかけにさらなる発展が期待される。今回の実験ではトレッドミルを使った強制運動だったが、自発的運動でも効果は同様であろうか。また、持久系運動だけではなく、筋トレでも視床下部などの中枢適応が生じるのか、興味は尽きない。

北 一郎 東京都立大学人間健康科学研究科ヘルスプロモーションサイエンス学域 教授:

運動が、直接、筋や心肺機能に影響することは、一般的に理解されていると思いますが、本研究の結果(提案)は脳を介しているという点で、ちょっとしたサプライズ感をもたらしているように感じます。しかし、よく考えてみれば、代謝や各器官の調節に脳機能も関わっていることから、(間接的かもしれませんが)不思議ではないのかもしれません。2週間の運動そのもの(仮に脳を介さない場合)が持久力を向上している可能性を考えた場合、運動なしで当該脳領域を刺激すると持久力や筋力がどのように変化するのかは興味深いです。

今回、持久力を走行速度と持続時間の向上から評価しています。2週間の運動期間ということから、持久力に関連する生理学的変化(酸素運搬能力や筋線維タイプの変化など)よりむしろ神経系の適応(運動神経の使い方、中枢性疲労など)が大きい可能性もあるのかと思いました。イメージトレーニングのみで筋力低下が抑制されたという研究もあるようですので、やはりインパクトのあるトピックのように思います。

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