2026214
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【ドイツSMC:Expert Reaction -専門家コメント-】スタチンの添付文書に記載の副作用、多くは因果関係不明

スタチンの効果とリスク評価に関する大規模メタ解析

Cholesterol Treatment Trialists’(CTT) Collaborationは、スタチンの添付文書に記載されている多くの副作用が、実際には薬剤との因果関係を示す十分な証拠を持たない可能性を示した。19のプラセボ対照試験について詳細に解析したところ、66項目の副作用候補のうち、尿組成の変化、浮腫、肝酵素異常、肝機能異常の4項目のみで関連が確認されるだけであることがわかった。スタチンが筋肉症状を引き起こす可能性や糖尿病リスクをわずかに高めることは知られていたが、疲労、頭痛、抑うつ、睡眠障害など多くの症状では関連が認められなかった。副作用への不安から治療を中断・回避する患者も多いが、専門家らは、スタチンを使用することの利益はリスクを上回るとしている。添付文書には因果関係が証明されていない「疑い」の副作用も法的義務として記載されるため、情報の解釈には注意が必要とされる。

論文リンク:https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(25)01578-8/fulltext

掲載誌:The Lancet

掲載日:2月14日付


【専門家コメント】

Prof. Dr. Oliver Weingärtner, Oberarzt Interventionelle Kardiologie, Angiologie und Lipidologie, Klinik für Innere Medizin I, Universitätsklinikum Jena:

ースタチンの意義と本研究について
スタチンは、ドイツ国内で数百万人が治療に使用していることから、臨床医療において非常に大きな意義を持っています。心血管系疾患の予防では、最も有効な薬剤の一つです。 今回のデータは非常に重要であり、このメタ解析は信頼性の高いものです。解析対象となったのは、この分野における大規模なランダム化二重盲検試験であり、スタチン治療中に観察される症状の多くが薬剤とは無関係であることを示しています。ドイツではコレステロール低下薬に対して非常に批判的な見方が存在します。「コレステロール神話(コレステロールが心血管疾患の原因ではなく、スタチンは無効または有害だとする議論)」といった主張はありますが、「高血圧神話」や「糖尿病神話」は存在しません。

ースタチン治療の中断率
患者がスタチン治療をどの程度中断するかについては多くの研究があります。Wolfgang Koenig らの研究では、36か月後に、当初、処方されたスタチンを服用し続けていた患者はわずか21%でした。コレステロール吸収阻害薬エゼチミブでも22%と同様に低く、非常に有効なPCSK9阻害薬でさえ、3年後に継続して注射を受けていた患者は約半数でした。

ー副作用の記載について
多くの副作用は、主に法的責任の観点から添付文書に記載されています。ランダム化二重盲検試験の結果がより反映されることが望ましいでしょう。現在の添付文書は非常に長く、そのこと自体が大きな不安を招き、極めて有効な薬剤が不当に使用されない原因になっています。

ー長期治療としてのスタチン
スタチンは長期治療においても一般に良好な忍容性を示す薬剤です。今回の研究で示されたような副作用は、通常、治療開始直後に現れるか、あるいはまったく現れません。そのため、治療開始後最初の数週間は肝機能値をモニタリングすることが推奨されています。


Prof. Dr. Ulrich Laufs, Direktor der Klinik und Poliklinik für Kardiologie, Universitätsklinikum Leipzig:

ー本研究の意義
Cholesterol Treatment Trialists’(CTT) Collaboration の最大の強みは、集計データではなく、高品質なランダム化試験の個々の患者データを用いて解析している点にあります。これにより、12万人以上の参加者を対象として、小規模なサブグループやまれな副作用についても、世界的に例のない精度で有効性と安全性を評価することが可能となっています。これらの解析は、事前に定められたプロトコルに基づき、主要なランダム化試験の原データを直接統合して行われているため、CTTの解析は独立した“ゴールドスタンダード”とみなされ、国際的な心血管疾患の予防ガイドラインにおいて、ほぼすべての基盤となっています。 今回の結果は、スタチンが筋肉症状や糖尿病リスクへの影響といった既知の副作用に加えて、肝機能値のわずかな絶対的上昇と関連するのみであり、添付文書に記載されている多数の症状との関連は確認されなかったことを示しています。専門情報における副作用の記載では、多くがリスクを過大視しており、医療従事者や患者を誤解させる可能性があります。より根拠に基づいた意思決定を支援するため、記載内容は見直されるべきです。

ースタチン治療の中断率
レジストリ研究では、スタチンを服用している患者の約10%が何らかの副作用を報告していますが、その約90%はノセボ効果、すなわち薬理作用によって直接引き起こされたものではありません。この点は服薬継続率や心血管疾患予防にとって大きな問題です。

ー副作用の記載
規制当局は予防原則に基づいて行動します。副作用を記載するには合理的な疑いがあれば十分ですが、記載した内容を削除するには、非常に大規模な患者集団で関連がないことを明確に証明する必要があります。 削除のプロセスは、当局の審査または製薬企業からの申請を契機に始まり、新しいエビデンスが欧州医薬品庁(EMA)の薬剤安全性リスク評価委員会(PRAC)に提出されます。まず、PRACが科学的評価を行い、副作用削除の可否を判断し、その後で医薬品委員会(CHMP)が公式勧告を出し、最終的にEU委員会が承認します。


Prof. Dr. Stefan Blankenberg: „Ich besitze keine Interessenkonflikte, nehme seit Jahren keine ‚Industrievorträge‘ an und habe seit Jahren kein Honorar von der Industrie erhalten:

ースタチンの意義と本研究
スタチンは臨床医療において不可欠な薬剤です。特に心筋梗塞後や冠動脈疾患(KHK)が確認されている患者でLDLコレステロール目標値まで下げるには、スタチン投与が基本です。再発心筋梗塞の予防、KHKの進行抑制、あるいは非常に高い脂質値を持つ患者における初発心筋梗塞の予防に確実な効果があります。適切に用いられるスタチンは、心血管分野の医療に不可欠なものと言えます。 今回のメタ解析は方法論的に堅牢であり、個別患者データを用いた解析が大きな強みです。対象となった研究は、主に、既に心筋梗塞を経験した患者や冠動脈疾患を有する患者を中心としたものであり、一部では高用量と中等量のスタチン治療が比較されています。一方で、健康な個人や軽度リスクのみを持つ集団に関する研究は少なく、本研究のエビデンスは、主に、KHK患者や心筋梗塞後患者へのスタチン投与に限ったものであるため、結果を一般集団に直接、適用することには注意が必要です。 長期的な副作用については、長年にわたるスタチン使用により、認知症、糖尿病、筋症状などの長期的な有害影響を示す明確な証拠はありません。適度または低用量のスタチン療法でも強い脂質低下効果が得られ、副作用を抑えつつ、心筋梗塞やKHK進行を防ぐことができます。

ースタチンのイメージが悪い理由
スタチンのイメージが悪い理由には、副作用に関する議論があります。主な副作用は筋肉痛と肝機能値の上昇ですが、過去に市場から撤退したセリバスタチンによる少数の肝障害例が、現在もイメージに影響しています。しかし、現在、主に使用されているアトルバスタチンやロスバスタチンでは、このような問題は観察されていません。研究結果からも、筋肉痛や可逆的な肝機能値上昇以外には、重大な副作用がほとんどないことが示されています。

ースタチン治療の中断率
実際の問題は筋肉痛で、これは用量依存的に発症するので、中止すれば消失します。筋肉痛で治療を中断する患者は約5~7%です。ただし、患者があらかじめ筋肉痛を予期している場合も多く、プラセボでも同様の症状が報告されていることと一致します。適切な説明、用量調整、別のスタチンへの変更、あるいは必要に応じてエゼチミブやPCSK9阻害薬への切り替えが有効です。

ー副作用記載について
添付文書は主に法的理由で作成されており、不安を生みやすい面があります。法律上の添付文書に加え、実際の利益とリスクを簡潔に示した「エグゼクティブサマリー」のような補足資料を設けることが望ましいでしょう。

ー利益・リスク評価の結論
冠動脈疾患や心筋梗塞後患者に対するスタチン治療は不可欠です。低用量でも大きな効果があり、副作用は少なく、重篤ではありません。一般集団でも、非常に高い脂質値を持つ場合には低用量スタチン治療が心筋梗塞予防に有効です。また、スタチン用量を大きく増やすよりも、必要に応じてエゼチミブなどの追加薬剤を併用する方が望ましいとされています。

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