2026217
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【Expert Reaction -専門家コメント-】世界のがんの5分の2は予防可能

世界のがんの5分の2は予防可能

国際的な分析により、世界中で発生するがんの約5分の2は予防可能であるとの報告がなされた。この分析では、生活習慣の改善や感染症対策などによって影響を与え得る30のリスク要因が特定された。研究者らは185カ国について2022年の新規がん症例1,870万例を調査し、女性で270万例、男性で430万例が予防可能であったと述べている。これらのがんのほぼ半数は、肺がん、胃がん、子宮頸がんであり、喫煙率の低下やヒトパピローマウイルスなどの感染症対策で対処可能だと指摘。ただし、予防可能ながんの種類は国によって異なり、オーストラリアでは悪性黒色腫が最も多いとも述べている。

論文リンク:https://www.nature.com/articles/s41591-026-04219-7

掲載誌:Nature Medicine

論文掲載日時:2月4日1h00


【専門家コメント】

武藤倫弘 京都府立医科大学 保健・予防医学教室 予防医学部門教授

ー本論文に対する評価・ご意見
本論文は2020年に世界で発生したがんの約4割(37.8%)は危険因子への暴露を避けることにより予防できた可能性を示した。主な危険要因は、喫煙(15.1%)、感染症(10.2%)、飲酒(3.2%)である。予防可能ながんの約半数は、世界規模で罹患数が多い肺がん、胃がん、子宮頸がんである。これまでに生活習慣改善等により6割が予防可能と考えられていたことを考えると、やや厳しめのデータが出たといえる。

解析の特徴として、リスク因子への暴露とがんの診断との間のタイムラグを計算に入れていることは評価できる。しかし遺伝的背景や複合リスクの評価は曖昧である。実際のタイムラグはがん種や暴露の時間や量によって異なるが、例えば10~20年に標準化されている。それでも本論文は、性別に配慮したがん予防戦略の必要性を強く説くのに十分なエビデンスを提供している。女性と比べて男性は地域差が少なく、どの地域でも1位喫煙、2位感染症、3位飲酒ががんの原因の上位を占める。そのため、世界で統一した対策が可能と考えられる。我々の対策も、そのまま世界に応用できるかもしれない。

ー予防可能ながんについて日本の現状と取り組み
日本のがん予防策は、「がん教育」を法律・学習指導要領(小・中・高)に入れ込んだ点で固有だと言える。とはいえ総合戦が必要だ。禁煙など生活習慣・環境面からの一次予防、がん予防薬を開発し皆で活用できる国策を進める「先制医療」、がん検診や内視鏡検査など二次予防のどれも重要である。近年は、遺伝学的なリスク情報も活用できる。

我が国の男性のがんの53.3%、女性のがんの27.8%は、生活習慣や感染が原因でがんになったと考えられており、男性においては喫煙(29.7%)、感染(22.8%)、飲酒 (9%)が主な危険因子である。女性においては、感染(17.5%)、喫煙(5%)、飲酒 (2.5%)である。

喫煙に対しては「がん教育」をさらに進める必要があるだろう。肺がん発生率の男女差が縮まってきているからだ。女性の喫煙率は、高所得地域(北米等)で世界平均の倍になる。女性の社会進出・雇用の増加が喫煙率、飲酒率の増加に反映しているという報告もある(本論文、注20)。

飲酒はこれまで文化として容認されてきたが、たばこのように厳しく管理される時代の到来が予測される。WHOは「2025年までにアルコールの使用を10%削減すること」を目標とし、国立がん研究センターも論調を強め「飲酒はひかえる」と述べている(2024年改訂版『日本人のためのがん予防法(5+1)』)。 感染症に関して対策が遅れているのは、子宮頸がんである。子宮頸がん(HPV)ワクチンの積極的勧奨は、2022年4月より再開された。 再開前に接種機会を逃した世代(誕生日1997年4月2日~2008年4月1日の方)へのキャッチアップ接種も実施されている。

ーその他ご意見
避けることのできない残り6割のがんリスクは、がん検診などによる早期発見・早期治療で対策するのが効果的と思われる。若い世代に発症する子宮頸がんにおいては検診による早期発見で子宮を守ることが可能である。また100年生きるこの時代に50歳代で大腸内視鏡を受けることは、罹患率1位の大腸がん予防対策として重要な行動である。少なくとも便潜血が陽性となったら精査(大腸内視鏡)を受けることは必須である。

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