【Expert Reaction-専門家コメント-】レーザー加工のガラスを用いた長期データ保存
レーザー加工のガラスを用いた長期データ保存
Microsoft ResearchのProject Silicaチームは、レーザー加工したガラスを用いてデータを長期間保存する新技術を報告した。研究チームは、多ビームフェムト秒レーザー(フェムトは10のマイナス15乗)でガラス内部に三次元ピクセル(ボクセル)として情報を書き込むアーカイブ保存システムを開発し、毎秒65.9メガビットの書き込み速度と、立方ミリメートル当たり1.59ギガビットという高密度記録を実現した。12平方センチ・厚さ2ミリのガラス片1枚に約4.84テラバイトを保存でき、これを情報量にすると数百万冊の書籍に相当する。実験では290℃の環境下で最大1万年間データが読み取り可能と推定され、室温ではさらに長寿命の保存が期待されている。磁気テープやハードディスクが数十年で劣化するのに対し、湿度や温度変化、電磁干渉に強いガラス媒体は、法的記録や文化資料などの超長期アーカイブ保存手段として有望視されている。ただし、機械的応力や化学腐食などの影響を考慮した寿命評価が課題として残されている。
論文リンク: https://www.nature.com/articles/s41586-025-10042-w
掲載誌:Nature
掲載日:2026/2/18
【専門家コメント】
三浦清貴 京都大学大学院工学研究科 教授:
本研究は、従来は複数パルスを必要としたガラス内部のボクセル(三次元画素)形成を、光の向きを変える複屈折ボクセルでは疑似単一パルス、光の波を遅らせる位相ボクセルでは単一パルスで実現し、さらにマルチビーム化による一斉処理で書き込み速度を大幅に向上させた点に新規性がある。加えて、プラズマ発光を用いたパルスエネルギー補正で光の強さを均一化することによる書き込み品質の安定化、CNN (畳み込みニューラルネットワーク)を用いた高度な読み出し、対物レンズの高 NA 化(光を鋭く絞ることによる高解像度化)や低散乱ナノボイド(光を乱反射させない微細な空洞)による多層化、マルチレベル符号化など、これまで個別に研究されてきた高密度化技術を統合し、ガラスストレージとして初めてエンドツーエンドで動作するシステムを構築したことに意義がある。
一方、磁気テープ・HDD・SSD といった既存媒体は寿命が短く、カビや電磁ノイズ・火災や水害などへの環境耐性も低いため頻繁なデータ移行が必要で、記録密度や将来の読み出し互換性にも限界がある。こうした課題から、長期アーカイブ用途では超長寿命・高密度・パッシブ保存が可能なガラス媒体の必要性が高まっている。
本研究の基盤となるフェムト秒レーザーによるガラス内部改質は日本の「平尾誘起構造プロジェクト」に端を発し、かつては5次元光メモリーや多層QRコード記録などの研究が国内でも行われていたが、現在は本研究と直接関連する国内研究は見当たらない。
本研究で用いるガラス媒体は熱・水・磁気・放射線に強く、数万〜数億年規模でデータを保持できる究極の不揮発性メモリーであり、重要記録の永久保存、宇宙環境でのデータ保持、未来へのデジタル文化遺産の継承など、多様な応用が期待される。
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