2011127
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「ビフィズス菌の感染防御機能」論文への専門家コメント

Ver.1.2 (Updated: 120716)

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<SMCJ/AusSMC発 ホット・トピック>

「ビフィズス菌の感染防御機能」論文に対する専門家コメント

 

 本日1月27日、英科学誌Natureで、ビフィズス菌がマウスの腸内で病原性大腸菌の感染を予防する仕組みを解き明かした研究結果が発表されました(*1:日本とオーストラリアの共同研究)。これは、プロバイオティクス研究(外部から有用菌やその産物を与えることで消化管内の細菌を改善し、宿主であるヒトなどに有益な作用をもたらすための微生物研究)の重要な成果です。

 この論文に関して、日本(SMCJ)とオーストラリア(AusSMC)のサイエンス・メディア・センターから、第三者の専門家の意見をお届けします。(AusSMC部分翻訳:SMCJ)

*1: Shinji Fukuda, Hidehiro Toh, Koji Haseet al. “Bifidobacteria can protect from enteropathogenic infection through production of acetate” Nature, 469, pp543-9 (27 Jan. 2011) 【リンク】 【理研プレスリリース

 

デイビッド・トッピング博士(Dr David Topping)

主任研究員, CSIRO 「食品の将来・予防健康フラッグシップ」(本部:アデレード) Chief Research Scientist with CSIRO Food Futures and Preventative Health Flagships, based in Adelaide

【※この方は論文の共著者です】

 「(かつて長いあいだ、悪いものと考えられていた)腸内細菌は近年、非常に健康に有益であるとの理解が、急速に広まっています。これらの有益な細菌(プロバイオティクス)は、食物繊維に含まれる炭水化物の代謝産物を介して、さまざまな効果を発揮しています。これらの代謝産物は短鎖脂肪酸(SCFA)と呼ばれます。この研究はこうした代謝産物のひとつである酸、「酢酸」が、からだをどのようにして高病原性大腸菌O157から守っているのかを調べたものです。

「O157は、食品媒介感染症の主だった脅威です。この研究は、プロバイオティクスのビフィズス菌は感染から守る仕組みを明らかにしたとともに、私たちCSIRO予防健康フラッグシップで開発中の技術が非常に効果的であることも分かりました。この製品は加工したデンプンで、特殊なSCFAを大腸へ送り届ける作用を持っています。実験のデータも、酢酸が感染した動物の生存にとって重要であることを証明しました。この研究の結果は、感染制御を支援するために、より効果的なプレバイオティクス(*2)とプロバイオティクス食品の開発をもたらすと期待しています。

「この研究プロジェクトは、基礎研究からその応用までを含む刺激的なものでした。この分野でCSIROは何年も前から日本の科学者と共同研究を続けてきましたが、理研のチームと研究したのは今回が初めてです。プロジェクトの成功は今後の新たな共同研究の端緒となると思います」

 

*2(SMC注):プレバイオティクスは、大腸など消化管にもともといる有用菌を増殖させたり、有害な細菌の増殖を抑制することで、有益な効果をもたらす食品成分。

 

佐藤 英一(さとう・えいいち) 准教授

東京農業大学 生物応用化学科 微生物学研究室

  「ビフィズス菌は、乳酸菌と並んでプロバイオティクスとしての保健効果が有望視されている菌種です。(ただし、乳酸以外にも酢酸やギ酸を多量に生成することから、微生物学的には乳酸菌とは異なります)

「今回の研究は、ビフィズス菌のなかのある菌種が作り出す酢酸が、腸管出血性大腸菌O157:H7の感染を防御するというものです。

「これまでもプロバイオティクスの生成する代謝産物が、感染症予防に関わっていることを示した研究例はあります。しかし、今回はメタゲノム解析やオミックス解析といった最先端の技術を使って、その防御メカニズムを解明した点で画期的だといえます。

「一方で、無菌マウスや培養細胞を使用した実験であることにも注意しなければなりません。もちろん無菌マウスや培養細胞は、こういった実験には一般的に使われますし、これらなしでは解析は不可能といっても過言ではありません。

「しかし、動物としてのヒトを考えた場合、ヒト腸内には1、000種類もの微生物が生息して腸内ビオータ(細菌叢)を形成しているといわれ、さらにマウスの腸内ビオータとも大きく異なります。

「したがって、無菌マウスや培養細胞を使った実験で得られた今回の結果を、そっくりそのままヒトに適応することは困難です。多くの研究者がこのジレンマと格闘しているわけですが、ビフィズス菌はヒトの健康に大きく貢献するプロバイオティクスの代表菌種ですから、今後は実際のヒト腸内での感染症防御メカニズムが明らかにされることを期待したいと思います」

 

 

横田 篤(よこた・あつし)教授

北海道大学大学院農学研究院 応用生命科学部門 微生物生理学研究室

「理化学研究所の大野博司氏らの研究グループによる今回の報告は、マウスを使った実験で、ビフィズス菌が腸管出血性大腸菌O157:H7による感染死からマウスを守る仕組みを、最新の様々な手法を駆使して明らかにしたものです。

「近年、乳酸菌やビフィズス菌のもつ多面的な健康増進効果が明らかにされてきましたが、その仕組みは余りよく分かっていません。この研究により明らかにされたことは、ビフィズス菌が大腸の中で果糖(フルクトース)の発酵によって生産する酢酸が重要な役割を果たしていることです。大腸の上皮細胞(表面を覆っている細胞)が酢酸を始めとするいくつかの有機酸をエネルギー源として増殖することはよく知られています。

「今回の報告は、ビフィズス菌の中でも、このフルクトースを発酵する力の強い株が大腸内でより多量の酢酸を作るために大腸が健全に保たれ、O157が腸内で作る志賀毒素を血中に移行することを妨げ、マウスが生存できることを示したものです。

「一方、ビフィズス菌の中でも感染死からマウスを守ることができない株は、フルクトースをビフィズス菌の細胞内に取り入れる作用が弱いために、酢酸が十分に生産できないことが明らかになりました。また、さきのビフィズス菌からフルクトースを細胞内に取り入れる仕組みを壊した変異株を取得したところ、酢酸を生産する能力が低下し、O157の感染死を防ぐ力が失われました。

「以前からビフィズス菌が炭水化物を発酵して生産する酢酸が、ビフィズス菌の健康増進作用の一因であると言われていましたが、それを直接証明したのは今回が初めてです。大腸内には通常、腸内細菌の発酵作用によって酢酸を始めとする有機酸がある濃度範囲で存在します。これらが私たちの健康維持に如何に大切なものであるかが、今回の論文で改めて示されました。また、どのようなビフィズス菌が健康維持に役立つか、そうした判断基準をも提示しています。

「しかし、今回の報告から、腸内の酢酸濃度を高くするためにお酢を飲めばよいということにはなりません。大切なことは、私たちと共生しているビフィズス菌を含む腸内細菌叢を健全に保つこと、そのために繊維質やオリゴ糖などを含むバランスのとれた食生活を心がけることです。

「今回の報告は日々腸内細菌が如何に私たちの健康を守ってくれているか、またそれを維持する食生活の重要性を示していると言えるでしょう」

 

 

【関連リンク】

<随時追加の可能性があります>

 

○”Bifidobacteria can protect from enteropathogenic infection through production of acetate”

http://www.nature.com/nature/journal/v469/n7331/full/nature09646.html

※発表元論文

 

○理研プレスリリース

http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2011/110127/index.html

 

○日本プロバイオティクス学会

http://www.probiotics.to/

 

 

※このリリース情報は、豪日交流基金の支援のもとに作製しました

 

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