ニュージーランド地震に対する専門家コメント
Ver.2.0 (Updated: 110226)
これはScience Media Centre (NZ)によるサイエンス・アラート(02/23-26/2011)の翻訳です。
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<SMCJ発 サイエンス・アラート>
ニュージーランド・クライストチャーチ地震に対する専門家コメント
2011年2月22日現地時間12時51分、ニュージーランド南島の中心都市クライストチャーチ(Christchurch)付近で起きたマグニチュード6.3の地震で、26日15時00分(日本時間)までに145人が死亡、少なくとも200人が行方不明となっています。専門家によると、今回の地震は、去年9月にダーフィールド(クライストチャーチの近くの町)で起きた大地震の余震と見られています。今回の地震に関して、SMCが収集した専門家のコメントをお届けします。
○ ニュージーランド国立地質学・核科学研究所(GNS Science)
(2011年2月25日現地時間1600までの情報)
「クラスとチャーチ地震を起こしたのはグリーンデール(Greendale)活断層では無い
火曜日に起きたマグニチュード6.3の地震観測の記録を見ると埋もれていた活断層はクライストチャーチの中心部からわずか9キロ離れた場所に東西方向に沿っていることが分かります。」
「去年9月のマグニチュード7.1の地震と今回のマグニチュード6.3の地震を起こした2つの活断層は繋がっているように見えません。しかし、余震の正確の位地からすると、この二つの活断層の間には更に二つの活断層が北東と南西に沿っている可能性はあります。グリーンデール活断層が延長している証拠はありません。」
“Christchurch earthquake not on Greendale Fault
Preliminary analysis of seismograph records of the devastating magnitude 6.3 earthquake on Tuesday show that it was just 9 km from the centre of Christchurch on a buried fault oriented roughly east-west.
There is no obvious structure directly connecting the faults that ruptured in the September’s magnitude 7.1 earthquake with the fault that generated the magnitude 6.3 event. On the contrary, precise aftershock relocations suggest that at least two north-east/south-west trending faults lie between the two and that there is no evidence from the earthquake data of an extension of the Greendale Fault.”
○ ニュージーランド国立地質学・核科学研究所(GNS Science)
(2011年2月23日現地時間1600までの情報)
「去年9月にダーフィールドで起きた地震のときは、クライストチャーチは震源地から少し離れており、時間も夜明けだったことが幸いし、被害は少なくすみました。しかし今回は、日中、都市部から10キロ以内の場所で地震が起きており、深度も5キロと浅く、多くの建物が崩壊し、死傷者が多数でています。」
「今回の地震のクライストチャーチでの揺れの強さは、昨年9月の震度7.1の地震やその後に起こった余震よりも遥かに激しいものでした。最も通よく揺れた場所はヒースコートバレー小学校で、揺れの大きさは220%g。ページズロードパンピングステーション(Pages Road Pumping Station)で188%g、ハルバーストーンロードパンピングステーション(Hulverston Road Pumping Station)で107%gを記録しています。これは震源地が都市部に近く、震源が浅かったせいです。」
(*『%g』は地震の力を表す単位です。ニュージーランドでは各地の記録所で『%g』を使い、地表面最大加速度(PGA)を記録しています。『重力』=g=9.80655 m/s^2の何%にあたるかを示しています。)
「地震学的に言うと、これは昨年9月に起きた地震に継続する余震と関連づけられます。統計的にはこのような余震の発生は十分に考えられます。しかし余震の間隔が長くなり、減ってきていたので、このような大きな余震が起きる可能性は少ないと見られていました。残念ながら、余震が起きた場所が、このような最悪な結果をもたらしてしまいました。」
The city had been comparatively lucky with both the location and timing of last September's magnitude 7.1 Darfield (Canterbury) earthquake; the location of this one within 10 km of the city and at a shallow depth of 5 km during the middle of a working day has resulted in destruction, injuries and deaths.”
Shaking intensity in the city was much greater for this earthquake than the magnitude 7.1 earthquake for any of its other aftershocks. The highest shaking was recorded at Pages Road Pumping Station at 188 %g, with readings of 127 %g at Heathcote Valley Primary School and 107 %g at Hulverstone Road Pumping Station. This is due to the proximity of the epicentre to the city and the shallow depth.
Seismologically, this is classed as an aftershock because of its relationship to the ongoing activity since September last year. Its occurrence was always statistically possible, but the long time interval and slow decrease in general activity had made it less likely. Unfortunately, it has happened after all and in a location that has brought the worst result.”
○ エリザベッタ・マリアニ博士
英国リバプール大学環境科学学部
Dr Elisabetta Mariani, University of Liverpool School of Environmental Sciences
(※マリアナ博士の専門は今回の地震を起こしたニュージーランド・アルパイン断層)
「今回のニュージーランド地震は”隠れ断層線(blind fault)”に沿って発生した可能性があります。隠れ断層線とは研究者が地表からは見つけることができない断層線のことです。私たちの研究チームは、最近ニュージーランドのアルパイン断層から石のサンプルを持ち帰ってきたばかりでした。アルパイン断層の南部では200年から400年ごとに断裂がおき、マグニチュード8クラスの地震が起きると考えられています。これからリバプールの研究室で、医師の内部構造を調べ、地震が起こった際にどのような力が加わるのかをシミュレーションします。この研究から、巨大地震が起きる仕組みや、どのような力が加わって起きるのかを解明できるのではないかと期待しています。」
"The latest earthquake to hit New Zealand may have occurred along a 'blind fault', which means that there is no expression of it at the surface of the earth that allows scientists to identify it. Our team has recently returned from New Zealand where we have been taking rock samples from the Alpine Fault, an area along the Southern Alps that is thought to rupture every 200 to 400 years, producing earthquakes of magnitude eight. In the labs in Liverpool we can look at the rock's internal structure and simulate the stresses that it experiences under earthquake conditions. We hope that the data from this study can be used to understand the mechanics and dynamics of large earthquakes.”
○ ピーター・スタッフォード博士
英国インペリアル・カレッジ・ロンドン土木環境工学部
Dr Peter Stafford, Imperial College London
(※ スタッフォード博士はクライストチャーチ出身でクライストチャーチのキャンタベリー大学工学部で博士課程を獲得。家族や多くの知人はクライストチャーチに住んでいます)
「クライストチャーチのすぐ南で起きたマグニチュード6.3の地震による被害が拡大しています。今回の地震は2010年9月に起きた地震と比べ、震源が非常に近くて浅く、これが激しく揺れた理由だと思います。
ニュージーランドのGNS Science(Geological and Nuclear Sciences – 国立地質・核科学研究所)が最初に発表した報告書をみると、クライストチャーチで観測された揺れのレベルは普通の建物が耐えられるレベルより大幅に大きかったことを示しています。ですから、多くのビルに甚大な被害が出て、倒壊するビルがあったことについては驚くことではありません。
ウェブサイト『GeoNet』(*1)からの情報によれば、地表面最大加速度(PGA)が重力の1.9倍ぐらいでした。(これが水平方向の記録か垂直方向の記録かは不明です。建物へのダメージは水平方向の加速が強く影響します)。いずれにせよ、この規模の地表面加速度は非常に大きいと考えられます。
今回の地震はまちがいなく9月の大地震の余震です。去年の地震はクライストチャーチの都市全域のビルに軽いダメージを与えたでしょう(建築工学的にいうと非構造的な要素のダメージ:例えば建物の外観、内部の壁、非耐力壁、間仕切りなど)。しかし、最初の大地震で受けた見た目にはわからなかったダメージを今回の建物の崩壊と関連付けるのは、まだ早いと思います。」
*1:GeoNetの情報
“Widespread damage has been caused by the ground shaking induced by the magnitude 6.3 earthquake just to the south of Christchurch.
The event is much closer, and much shallower, than the larger M7.1 earthquake that occurred in September 2010. This is the primary reason why the levels of ground shaking that have been observed are so severe.
Initial reports from the GNS Science in New Zealand (a government research institute looking at Geological and Nuclear Sciences – GNS) indicate that the levels of shaking that were observed in and around Christchurch are significantly greater than the levels that structures are typically designed to withstand. It is therefore no surprise that many structures have suffered extensive levels of damage, and that some have collapsed.
Images such as that above, taken from the GeoNet website, suggest that peak ground accelerations reached as high as 1.9 times the acceleration due to gravity (although it is not clear whether these are recorded in the horizontal or vertical direction – horizontal accelerations are those most relevant for estimating damage to buildings). By any measure, accelerations of this level are considered to be very large.
This event is almost certainly an aftershock of the larger event that occurred in September. This large event caused damage to structures throughout the city that was thought to be primarily superficial (affecting what structural engineer’s refer to as non-structural elements, e.g., facades, in-fill panels, non-load-bearing walls and partitions etc). However it is too early to say whether some of the collapses that have occurred have resulted from undetected damage caused by the first major event.”
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